「あいにくあんたのためじゃない」柚木麻子(新潮社)

柚木麻子さんの、一番新しい小説かな。2024年の直木賞候補作にもなった「あいにくあんたのためじゃない」。40ページほどの短編が6つ集まった短編集で、新型コロナが勢いのあった時期、ネット、SNSが日常のコミュニケーションで大きな役割を果たすようになった時代を背景に、いつものようにかなり奇矯な登場人物たちが奇想天外なバトルを繰り返す、柚木ワールド爆発という感じ。
好きな人は、このブラックユーモアあふれる奇想小説群を大いに楽しめるだろうが、趣味が合わない人はとことん合わないかも、という小説ですね。直木賞候補になったけど、残念ながら撃沈でした。でも審査員の皆さん、柚木さんのこの独特の才能はちゃんと認めておられて、この作品ではあげないけど、というスタンスと思えた。
私的好みで、この6作品を順位付けし、一言コメントしてみると:
1位 トリアージ2020(とても暖かい ミステリー風味)
2位 めんや 評論家おことわり(びっくりの展開 二視点での柚木得意の形)
3位 パティオ 8 (若い奥様がその後どうなったかは、とても気になる)
4位 BAKESHOP MIREY'S (あるある…な話で、若い女性の生態書かせたら凄い)
5位 商店街マダムショップは何故つぶれないか(マイルドホラー いい話風だが、いまいちわからない)
6位 スター誕生(MCワンオペの登場はかなり衝撃的だけど、最後になんだかよくわからない結末になったのが惜しい)

柚木さん、これまでのはっちゃけ小説が好きなら、ぜひご一読を。それにしても、「ナイルパーチの女子会」でもそうだったが、いわゆるインフルエンサーの生態を描かせたら、露悪的でなかなか凄わざ。笑えるというより、ちょっと不気味くらい。
以下に、直木賞の選評を貼っておきます。
柚木麻子女42歳×各選考委員 作家の群像へ
『あいにくあんたのためじゃない』
短篇集6篇 408
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員評価行数評言
京極夏彦
男61歳
24「共感する読者も多いだろうし、何より実に痛快である。やや気になるのは視点人物の内面描写に一律にバイアスが掛けられているように感じられる点だろうか。コンセプトから外れた作品の語り手のモチベーションまで同じように読めてしまう。」
角田光代
女57歳
29「おさめられた作品はどれも勢いがあって個性的だ。」「(引用者前略)痛快であるが、痛快さを感じたあとで、勧善懲悪のカタルシスではなく、正義による社会的制裁に加担したような居心地の悪さが残る。個人的には「トリアージ2020」がすばらしいと思った。」
三浦しをん
女47歳
22「「BAKESHOP MIREY'S」が特に好きだ。登場人物たちのこれまでの生活、心情がひしひしと伝わり、ほのかな希望も感じられるからだ。ただ、ほかの短編はちょっとテイストが似ている気がした。」「短編Aに登場する女性が、短編Bの登場人物になったとしても、短編Bの展開にあまり変化は生じないのかもしれない、とも思えたのだ。」
林真理子
女70歳
19「肩の力を抜いたおかしさがある。」「が、最後にかなり強引なオチをつけた作品があり残念であった。しかしベイクショップを開くことを夢みる若い女性と、高学歴のOLとの出会いと行き違いを描いた短篇は柚木さんの真骨頂。」「一穂さんと並んで、短篇集が二冊となったのも不利だった。」
宮部みゆき
女63歳
19「いかにも柚木麻子さんらしいパワフルな作品で、行間から柚木ファンの「待ってました!」というかけ声が聞こえてきそうでした。しかし、そのライブみたいな「熱」が、この作品にはプラスになっていないような気がしたのです。」
浅田次郎
男72歳
17「上質のユーモア小説と読めるが、さほど普遍性はなく、年齢性別素性等によっては笑えぬどころかわからない。」「正しくは理解できないのではなく、「ついていけない」のかもしれぬ。」
高村薫
女71歳
18「全体に饐えた匂いが漂うけだるさは作者自身のコロナ下の時代感覚だろうが、度の過ぎた「パティオ8」の悪乗りや、着地点が見当たらない「商店街マダムショップ~」の書きっ放しはどうしたことか。」
桐野夏生
女72歳
13「生きのいい短編集で、どれも着眼点が面白く、華やかな印象がある。」「各短編の切り口はとても鮮やかだ。しかし、その結末を思い浮かべることができないのは、着地点に物足りなさが残るせいだろうか。」


 

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