朝日新聞の先週の書評に載った作品。2026/3/15初版。アメリカの黒人女性作家による「回想記」のような、小説のような、自伝のような作品で、なかなかシビアで、しかもリリカルで圧倒的な怒りとエネルギーにあふれたものだった。
アメリカ南部ミシシッピ州の田舎町で育った黒人のミミ。四人兄弟の長女で、父は家をでていき、母はメイドとして働き家計を支えている。黒人たちのコミュニティでは、大家族が多く、母もまた自分の実家を中心とした貧しくも賑やかなコミュニティで助け合いつつ生きている。それでも子供たちの父を失った喪失感は大きく、母が地区の黒人家庭にありがちな離婚と母子家庭という、長年繰り返された貧困の背景そのものを自分もまた引きずっていくことに、絶望と諦念の思いで生きていることを、子どもたちも幼いながら感じ取っているのである。それでも、4人の子どもたちは、幼いころはそれぞれが幸福を享受していた。まだ社会の「悪意」を知らないうちは、家族の愛に包まれていたし、優しい思い出にみちていたのだ。
ミミはやがて篤志家の援助を得て私立の高校に入り、名門のスタンフォード大学に学ぶことができた。家を離れて暮らしても故郷を忘れることはできない。そして悲劇が訪れる。
大学を卒業し、就職をひかえニューヨークにいたとき、ミミの最愛の弟ジョシュアが事故死する。彼は19歳だった。高校を中退し、職場を転々とし、薬物の売買にも関わり、それでも彼は最愛の弟だったのだ。それから五年間の間に、立て続けに4人の友人が周囲から消えていったのである。みんな黒人の若い男性たち。まるで「間引き」されるかのように。深南部アメリカでは、いまだ黒人であることは人種差別と貧困と暴力の中に生きること。「おまえは無価値だ」という決めつけに、抗うことはあっても、結局は社会全体の圧に負けて、絶望を感じ、犯罪や薬物摂取の道に堕ちていくことになってしまう。死んだ男たちはみんな同じように、「無価値」なものとして、この世から消えていったのであった。
ジャスミン・ウオードの自伝的な回想録である。多くの賞をとった。この作家、これまでに全米図書賞を二回とった稀有の女性作家である。「歌え、葬られぬ者たちよ、歌え」と「骨を引き上げろ」、翻訳もされている。どちらも同じようなテーマで書かれた作品のようだ。
ニューヨークタイムズの2024年「21世紀のベスト100冊」に、上記2冊とこの「私たちが刈り取った男たち」が入っている。
なんというか、テーマが明確で、怒りと悲しみと暴力と深い肉体的な家族の血のつながりが感じられる、厚みのある小説。小説の背景を彩るミシシッピの灼熱の太陽と、砂埃と草いきれの匂い。澱んだけだるいサマータイム。80年代90年代のアメリカンビートが、中古車のカーステレオから流れてくる。すべてが、「生命」を溢れさせているような。久しぶりに「文学の力」を感じさせるものだった。
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