「昭和的」関川夏生 絵:南伸坊 (春陽堂書店) 

谷口ジローとの共著「坊ちゃんの時代」で有名な関川夏生、ずっと明治以降の日本人の生き方を書いてきたノンフィクションライターがメインだけど、小説も書くし、劇画原作もするし、編集者でも記者でもあるマルチなライターさん。タイトルの「昭和的」でわかるように、昭和を懐かしむエッセイ集です。
登場人物は、山田風太郎、小津安二郎、黒澤明、三島由紀夫などなど、昭和のスターたちがたくさん。そして、吉本隆明、内田樹、大瀧詠一、重信房子、桐島聡、ヤマザキマリ、高橋秀美、狩撫麻礼などなど。このあたりの人物模様、ぱっとわかれば、この本がどのような読者を想定しているかわかる。
わかりやすく、面白いエッセイだが、全体的に「哀愁」がただよっていて、それは各分野での有名人物の、ちょっとした裏側とか、実際の一面とか、人間らしい、ほっとするような、ちょっと情けないような、そんなエピソードを、一人につき5ページくらいで紹介しつつ、焦点は、その晩年の姿、亡くなった時の様子とか、そのあたりにあてている、そういうスタイルのせいなのかも。関川さんは、まあノンフィクションライターなんだが、取り上げるのが、明治以降昭和までの人たちで、なんというか、切ない感じがいつもあるのであった。
吉本のところ、それは「老いる」というサブテーマでもあるのだが、関川自身が70代後半になって、心からの共感を寄せているからなんだろう、視線は優しい。「隆明だもの」を書いた吉本の長女ハルノ宵子が、父の文章をして「とにかく不親切なのだ~」と批評して、関川が思わず、「そうか。ならばいくらか私の気が休まる。」と述懐するあたり、こちらもホッとするのであった。吉本三部作は、「共同幻想論」しか読めなかった自分なので。車いすの吉本が2003年の受賞後講演会で、終わりのないスピーチをしてみんな困惑してしまって、関川が、そこに割りこんでいって、その場を収めた話、「誰でも老いる、誰でもボケる」というタイトルの意味がわかる。関川はハルノの文章のあと、こんな風に言う:

「長生きは老化のもと」と言ったのは哲学者の土屋賢二さんだが、「長生きはボケのもと」でもある。

村田兆治、もんたよしのり、渥美清、並べていくと、どんなエッセイの内容か少しわかるのでは。面白かった。一気によみきった。イラストが南伸坊で、昭和的な味わい深い絵があちこちに載っている。


 

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