「サイレントシンガー」小川洋子(文藝春秋)

とても美しい物語です。不思議な世界にいる孤高の声の持ち主の短い人生の物語は、読み流ら、まるでカフカの世界のようだと…2025/6/30初版
賑やかなエンターテインメントもいいし、哀しいラブストーリーもいいし、そしてこの「サイレントシンガー」のような、静かな歌声だけを聴いているような、幻想の文学もなかなか捨てがたい。退屈しそうでいて、読みだしたら止まらない。夕方から読みだして、夜の11時までかかって読み終えてしまった。いい本です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「アカシアの野辺」で集団生活をする人たちがいる。「内気な人たち」言葉をほとんど使わず、指の形だけで必要なコミュニケーションをとる。農作業をし、羊を飼い、農産物や羊毛製品などを細々と園内で販売して暮らしている。リリカはその販売所に勤める祖母と二人暮らし。リリカたちは集団生活の仲間ではないが、限りなくその寡黙な人たちに近いところにいる。
やがてリリカは歌を歌うようになる。羊を慰める歌声。一切の自己主張をしない歌声なのに、誰の声とも見分けがつかないほどなのに、それはリリカにしか歌えないものだった。人をなぐさめ、人の孤独とともにある、そんな歌声を持っていたのだ。
リリカが大人になるにつれ、リリカの歌声を必要とする人たちが現れてくる。だが、それはリリカというシンガーを求めているのではなく、その限りなく控えめな、限りなく透明な、限りなく美しい声だけが求められているのだった。
人は老いる。「アカシアの野辺」もまた。リリカはその人たちと一緒にいる決意をする…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1994年の「密やかな結晶」という作品、昨年ブッカー賞候補になっていてびっくりしたけど、同じような傾向の作品。あちらは近未来の記憶消滅の話だったけど、こちらは現代が舞台で、「言葉」をもう必要としない人たちの話。雰囲気がとても似ていて、ちょっと思い出してしまった。小川洋子のメインテーマの一つなのかも。

たとえばバッハの「無伴奏チェロ組曲」とか「ゴルドベルク変奏曲」とか、そんな音楽を小さく流しながら読んでみたい感じです。本当なら、きれいなアリアがいいんだろうが、声楽はあまり詳しくない。なにか似合う曲がありますか?
 

コメント