2025/9/30初版。内田さんの一番新しい本かな。タイトル通り、まもなく後期高齢者になる内田さんが、若い編集者からの質問に答える形で、老いとは、生きるとは、仕事とは、結婚とは、友とはなど、普遍的テーマについて、柔らかい言葉で語りかける。
内田さんが語ることって、たくさんの著述の中でも、ブログの中でも、いろんな講演でも、大体は一貫している。レヴィナス研究者であり、合気道の武道家、修行者という立場からの考えなんだろう、ぶれない、同じ基本から出発して、どんな話題でもしっかり芯が通していく。ただし柔軟で凝り固まらないのように気を配っている。
今回は老いの話だけど、まあありていに言えば「老いをうけいれよ」というお話かな。決して和田秀樹さんなどのような、老齢マニュアル的要素はないので、間違ってかわないように。
むしろ質問をしてきた若い編集者に対して、若いその今を大切にということを教えている。誰にも親切にせよ、友達を無理に作るな、何かを選ぶな、むしろ自分を求める声、自分に呼びかける声に耳を傾け、自分が求められるところに行けと、やさしく教えているように思える。だから、この本は老いの話ではなく、「正しく老いるための、若者への教え」みたいな位置にある本じゃないかな。
内田さんの言説をいくつか拾ってみよう。
内田さんは膝を痛めて手術したり、昨年はがんの手術をしたりして、いわゆる健康自慢では決してない。むしろ、「老いるとは、回復しないからだと付き合うこと。もう機能が回復することはない。パフォーマンスが低下したこの身体とていねいにつきあって、それが蔵している資源をできるだけ長持ちさせるような使い方をするしかない。」という立場。さらに言えば、老いてもなお若くとか、エバーグリーン的な標語とか、そのように老いに逆らったり、無理したりするのは、ある意味あさましいことくらいに考えてる。
若い人が、「自分らしさ」を求めたり、それにこだわってしまうのはよくない。「自分」とは、決して固定的なものでなく、年をとり成長するなかで、様々な自分が生まれ、調整しながら、人として成熟していくもの。あまり「自分らしく」と固定的に考えないこと。
「成熟するというのは、自分の中に幾重にも層があって、複数の声が輻輳しているような、厚みと奥行きがある人格を作り上げること。だから「自分らしさにこだわること」と「成熟すること」は食い合わせが悪い。」
結婚について。「結婚というのはそれほど楽しいものではない。むしろ人格陶冶の修行のようなものだから、結婚はできたらしたほうがいい。」「どんな人と結婚しても、そこそこ幸せな結婚生活が送れる…というのが人間の成熟度の一つの指標」結婚において、相手に多くを求めたり、結婚そのものを夢見たりするのでなく、相手のためにやってあげること、親切にしてあげること、相手を理解すること、それによって自分を高めよと。
人口減社会について。先進国はどこも出生率が低下している。今日本は1.3人となっているが、実は、中国が1.2人、韓国にいたっては0.8人という状態。どの国でも人口減少問題を抱えている。ただし、マクロ的にみると、世界人口が81億でこれは多すぎなので、ある意味適正な動きなのかも。江戸時代の日本の人口は3000万で、これが250年続いた。増えなかったのは、定常経済で、資本主義ではなかったから。資本主義はそれ自体が膨れあがる性質をもっているので、人口減社会においては、脱成長、脱資本主義という考え方(内需中心の)で生き延びられる。などなど、いろんなことが雑多に書いてあって、内田の本はその雑談が楽しい。
本の最初のほうで、こんな老人の生き方がいいという、一つの見本として、森鴎外の「じいさんばあさん」という話を紹介している。青空文庫で読めるので、短いから読んでみて。
森鴎外
コメント
コメントを投稿