時代ものを主に書かれる澤田瞳子さんの、2021年直木賞作品。
江戸末期から明治、大正にかけての物語。浮世絵師で狩野派の絵師であった河鍋暁斎の娘、とよは、異母兄に周三郎とともに、鬼才の父のあとを追うように、日本画の修行をし続ける。親らしいことは一つもせず、絵にのみかまけた異能の天才に二人の思いは複雑である。時代はすでに洋画の影響が圧倒的に大きく、狩野派的なものはとうに古風となり、父の死後は大勢の弟子たちも四散し、家をでている兄とは連絡も途絶えがちになりながら、とよは絵を描き続ける。
偉大な父とそれを憎みながら追いかける娘の話。とよを支える人たちに人情の話、そして明治から大正へと移りゆく世情のこと。ついに対象12年、関東大震災へ。
巻末に挙げられた資料の膨大さに驚くとともに、日本画の歴史を学ぶよい機会となった。ストーリーは、とよの一生の物語なので、非凡なものではなく、むしろ淡々と時間が流れていくばかり。大きなドラマというより、娘の父への思い、絵画への思いの変遷が語られている。澤田さんの文章のうまさ、この手の時代ものの空気が見事に表されている。とても上手い作家だと思う。
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