「自転しながら公転する」山本文緒(新潮社)

山本さんは、「プラナリア」に続いて2冊目。こちらもとても面白い。2021年の島清恋愛文学賞だかをとっている。初版は2020年9月だが、2016年から原作は小説新潮で連載されていて、それを大幅改稿したもののようだ。恋愛小説である。出会いがあり、別れがあり、まだ再会があり、ラブストーリーの王道をいくものだと思う。ただし、結構女性向きの本かも。気持ちの行ったり来たりが繰り返されて、主人公の女性が魅力いっぱいというよりも、わりと等身大に描かれていて、そこが女性に受けそうというか、共感されるかも。

茨城牛久が舞台。地方のモールにあるアパレル店で、契約社員として働いている都子は、32歳。同じモールの回転寿司で働く貫一30歳と出会う。貫一は中卒で、ヤンキー崩れ。家庭も複雑で父母が離婚しており、父と暮らすもその父は介護施設に入所している。見向きもされない底辺の男なのだが、その過去が明らかになるにつれ、男としての魅力が増してくる。
都子は高校時代からファッションに関心を持ち、高卒で東京のアパレル系の会社に就職し、若くして店長までなったが、人間関係のトラブルで仕事をやめて地元に戻り、モールで働いている。母の更年期障害のと鬱状態の看護もあった。都子のほうはまあ普通の女性という描き方。やや怠惰なところもあり、高い目標はもっておらず、人間関係を無難に収めつつ、その日を暮らしている。でも結構モテる。
二人の恋愛は、年齢のこともあり、結婚していいのか、将来性のない男とと別れた方がいのかという葛藤で、いったりきたり、ずるずるという感じになっていく。店での上司とアルバイトの若い子たちとのトラブルや、本部役員からのセクハラなど、アパレル系ならあるだろうなと思われる問題が続出。家庭では父がガンの手術をしたり、母親の鬱がひどくなったりと、心休まるときがない。かといって、都子が全部引き受けて頑張るという風でもなく、うつうつと手を抜きながら、その日を過ごし、少しずつ時間が過ぎていって、そしてある日事件が起きる。

エピローグ直前の最後の貫一の言葉にたどりついたら、きっと胸打たれると思う。そこまでまず長いが、長さを忘れて一気読みするだろう。
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山本文緒さん、この小説を書いたあと、2021年10月に58歳の若さで病没されている。誠に残念。

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