「恋とか愛とかやさしさなら」一穂ミチ(小学館)

2023年に「ツミデミック」で直木賞をとって、これが2024年に書いた次の作品。「光のとこにいてね」の次の長編かな。前の二作とは少し毛色が違っていて、それでも一気に読者をひっぱっていく力はすごいなあと思う。

つきあって五年になるカップル啓久と新夏、そろそろと思っていたある日啓久からプロポーズされる。幸せな日々が始まるかと思いきや、啓久が電車の中で、女子高生のスカートの中を盗撮するという事件。逮捕され警察に連行されるのだが、なんとか示談で終わらせることができた。ひたすら謝る啓久とその両親に対し、新夏はどうしても許すことができない。その一方で、これまでどこも欠点のなかった啓久とすぐに分かれるという気持ちにもなれず、うつうつとしたきつい時間が過ぎていく。

啓久のほうも、性加害者構成プログラムのサークルに顔をだしたり、被害者の女子高生と偶然出会ったり、その家族の深い闇を知ったり、会社での噂話などで傷ついたりなど、事件がなければ知るはずもなかった世界にひっぱりだされていく。

ストーリーは、新夏の視点で書かれた前半と、啓久の視点で書かれた後半で、全体像が描かれるという作法。ちょっと「光のところにいてね」に似ているかも。この後半が特にスピーディで不気味な展開になっていく。周囲の人間の変化というか、ごく普通に見えていた周りの人間にも何か異常なものが見えてくる。こういう描写は上手い。
日常に潜む性加害とか、SNSの問題とか、正義の怖さとか、穏やかに見える夫婦の間の秘密とか、ルッキズムとか、スマホカメラの怖さとか、現代人の日常の裏側にある陥穽、人間の暗い部分に焦点をあてた感じ。みんな普通の人のようでいて、どこかに問題を抱えている。楽しい話ではないのだけど、そんなにヘビーな描き方でもないので、さくさくと読める。啓久には、なぜか目を離せないと、個人的な感想。

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