「カフェーの帰り道」嶋津輝(東京創元社)㊗直木賞受賞

本を買うのは文庫か新書まで。単行本は図書館で、というのが年金生活者の心得と思っていたのだが…買ってしまった。嶋津輝さん「カフェーの帰り道」面白かったよ。
まあ、買ったといっても、宮城ポイントで買ったわけですが。

関東大震災後の1926年頃から終戦後の1950年頃にかけて、東京上野界隈にあった「カフェ西行」という、小さくて地味な喫茶店をめぐるお話。このカフェの女給たち、長く務めるものもあれば、すぐやめていくものもあり、それぞれが個性的でそれぞれが一癖あって、魅力的なところもあれば、愛すべき短所もあって、そうした女給軍団wの平凡な日常と、悲喜こもごもの人生を綴っていくもの。登場する女給たちは全部で5人(+1)かな。みんな若い女性らしく、ファッションとかお菓子とかが好きで、家に帰れば寝たきりの母親がいたり、出征する兄弟がいたり、夫が戦死したりと、戦後の闇市をうろついたりと、それぞれに時代の波にのまれながら必死で生きていたのです。これは東京下町に暮らす庶民たちのしかも、若い女性たちの生き方から見える、小さな昭和史です。6人の女性たちが、時代を追って次々主人公となる連作短編だが、その6人が別の短編にも現れて、ストーリーがカフェーをめぐってぐるぐると回っている輪廻のよう。少しページを戻したりしながら、ゆったりと楽しめる構造になっているのも、なかなか上手い。
嶋津さんの筆致はあくまでも坦々と、遠巻きにしながら、視線は優しく。悲劇はそれとして、あまり深くに立ち入らずそれでいて、心の奥底を見通している、そんな印象。嫌な奴がでてこない。いくらでも嫌な奴がいた時代なんだけど。かといってきれいごとでもない。作者の登場人物への愛情があふれている。前作の「襷がけの二人」とほぼ同じようなテーマだと思う。昭和初期の女たちの、たくましくも優しい生き方を、応援しながら書くのを楽しんでいるみたい。とっても優しい気持ちになれる読後感でした。お勧めの本です。


 

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