「何者」朝井リョウ(新潮社)

昨日に続いて朝井リョウをもう一冊読んだ。ちょっと古い2012年の小説で、翌年の直木賞を受賞した。また佐藤健、有村架純、などによって映画化もされた。
男子3名女子2名の大学生による、就活大作戦。それぞれのスタンスで就活にとりくむのだが、仲の良い5人とはいえそこは人間、妬みとか僻みとか負の感情も普通に生まれ、それがツイッターを中心としたSNSなどとの相乗効果で、少しずつ疑心暗鬼的な雰囲気も生まれてくる。
主人公の拓人は、演劇サークルをやっていた男。周りを冷静に観察するタイプで、一緒にルームシェアをしている光太郎は、ロックバンドのボーカル。髪を切って黒く染め終活に臨むが生来の明るい性格で、周囲を盛り上げてくれるタイプ。瑞月は光太郎の過去の彼女で、拓人がひそかに恋している女性。堅実にまじめに終活に挑む。理香は留学帰りで様々な活動をしてきた意識高い系の女性。就活での自己アピールに賭ける。理香と同棲している隆良は、プライドの高い男性で周りを少し小ばかにする態度が見られるものの、意外に就活にのめりこんでいたりする。この5人がメインキャラで、主に拓人を中心に物語が進む。
本音をどこまでさらすのか、自分をどのように見せるのか、飲み込んでしまった思いはどのように吐き出すのか、人間関係に悩んだことのあるひとなら、かなり思い当たるところもあるはず。つまらないこと、些細なことなんだが、それでも人は小さなプライドを持って生きて、そのプライドが傷つけられて落ち込んでしまう、青春時代には誰しも思い当たる感情のバトルが展開されるのであった。
かなり、面白い話だが、ここまでの人はいないんじゃないかとか、SNSでの自己評価(なんていうんだっけ、自分のことを調べるやつ)を気にするなら、SNSやらなきゃいいのにとか、でもまあはまってしまう人はいるし、今の時代(この作品が書かれたのは14年前!)なら、もっと大変なことになってるのかも。
こういう作品書かせたら、朝井リョウは相当上手いですね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以下、直木賞の選評である。

朝井リョウ男23歳×各選考委員 作家の群像へ
『何者』
長篇 472
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員評価行数評言
宮部みゆき
女52歳
32「デビュー以来、朝井さんは一貫して、作者の顔に返り血が跳ねかかってくるような切実な題材に取り組んできました。これは、大きな勇気と、最後の最後のところで人間の善意を信じる寛容な想像力がないとできない。しかもこの若さで。そこにも感嘆しました。」
伊集院静
男62歳
51「一読、凡庸な作品では? と思った。それでも妙な気分が残り、私の小説の基準を除いて読み返し、登場人物を並べてみると、皆の顔が見えてこない。面白い。」「それでもやはりわからぬまま私はこの作品を推した。かつて小説とは何ぞやと喘いで、それでも手探っていた頃にゴツゴツしているだけのものが残った、あの感触をこの作品に感じたのが推した理由である気もする。」
浅田次郎
男61歳
20「私なりに面白く読んだのだが、若い人の生活や人間関係や社会観に対する興味にとどまった。」「この作家の未来の光明は、作中の瑞月という登場人物の抱える苦悩にあると思った。その部分を俯いて通過してしまったために、作品全体が主軸を喪った。」
桐野夏生
女61歳
44「ネット空間に向けて常に発信を続けなければならない彼らの強迫観念はいったいどこから来るのか。(引用者中略)シュウカツで、お前は何者だ、と問われることだけでなく、この作品はネット社会における無間地獄を描いてうまい。」「プリンタを借りざるを得ない経緯や、瑞月の母親の話などは、やや用意周到過ぎる気がしたが、たいした欠点ではない。」
北方謙三
男65歳
17「私小説的、日常の事象の取捨から、フィクショナルなものに昇華していくという、できあがった小説技法の中で書かれ、見事に若者のありようの一面を描き出している。」
林真理子
女58歳
24「双手を挙げて賛成というわけにはいかなかった。この作品に出てくる、就活に励む学生たちはおそらく一流大学に通っていると思われる。そこでの会話や悩む様子に、一次選考で落とされる二流、三流校の学生の視点がまるで欠けていることが不満であった。」「小説が「若者の解説書」であってはならない。が、ラストの一連のどんでん返しは見事で、この作品に深みを与えている。」
宮城谷昌光
男67歳
6「構成における弾性のなさに不満があったが、ここでは賀を献じておきたい。」
阿刀田高
男78歳
24「当初は若干の不足を抱かないでもなかった。一般論として言うのだが、昨今の若い作家の作品には自分を中心にして千メートル以内の世界を描いたようなものが多く、もっと想像力の豊かな小説を待望しているので、『何者』にもそんな傾向を見てしまったのである。だが他の委員より就活に悩む学生たちがさまざまな情報や評価に踊らされ、自分が何者なのか、周囲は何者なのか、喪失感に陥り、それが今日的な大きな問題であることを指摘され、この作品の評価が変わった。」
渡辺淳一
男79歳
29「今回、もっとも心をひかれた」「現代の大学生が就職期を前に、各社の試験官に気に入られるため、個々の人格や個性を失い、変貌していく実態が、さまざまな視点から鮮やかに描かれている。」「このような現実が、とくに悲劇的でも絶望的でもなく、現代風俗の一端として冷やかに、ときに遊びの感覚まで交えて表現されているところが、シニカルで魅力的である。」

コメント