なかなかの物議短歌 高島裕さんの歌・・・ 今朝の朝日歌壇を読んで

*画像は会津駒の中門岳。本文とは関係なし。

 今日の朝日新聞の「歌壇・俳壇」の歌人コラム、今日の担当山崎聡子は、高島裕の作品を取り上げている。これ、初めて知った歌人で、びっくりの「ウヨク」的?短歌なので、少しだけ調べてみた。まず新聞にとりあげているのはこんな歌:

  遠つ代の冥(くら)きより曳くひとすぢの白光(びやくくわ)かけがへなき國體(アイデンティティ)

ちょっとふわっとしているが、国体というのは天皇を中心とした国家観とでもいうか、日中戦争当時から軍部が「国体」とは、なんていきっていた、そんな言葉。我が天皇を中心とした国家はずっと昔から輝いていたのだという歌(だと思う)。

ネットで調べてみると、高島裕のこの作品は「アイデンティティ」という連作で、2025年の「歌壇」2月号に掲載され、かなり物議を醸したとか。ほかにどんな作品があるか、ネットで見られるのは代表作の幾つかだけで、若い歌人の久永草太が同じ「歌壇」の5月号で書いた批判的時評に引用した歌を紹介すると: 

    ・ 国連を味方につけて強気なり、性と婚姻の紊乱者ども

    ・ 「おひとりさま」でいいわけがない(目を覚ませ)遠天をゆく雁のひとこゑ

     (詞書)「女性の社会進出」

    ・ 「産む性に賃労働を押し付けた」と数十年後に責められむ、男(を)は

などなど。久永が何を歌っても自由ということではない、としている。「いやなものをみた」という厳しい言葉もあったようだ。それに対して、作者の高島自身がnote で反論をしている。

久永の意見については、ネットでそのものは見られないが、黒川かおるの投稿が詳しい:

https://note.com/kurokawakifuyu/n/n0c0e5c7dab13

久永に対する高島の反論はこちら:

https://note.com/zxcvbnm013_/n/n4bf1f0712947

吉川宏志の意見はこちら:

https://toutankakai.com/magazine/post/16787/

そもそも、朝日新聞のコラムの山崎は高島の歌への単なる批判ではなく「背景には、ナショナリズムが高揚し、多様性の否定に向かいかねない現代日本の潮流があることは否定できないだろう」として、時代の一つの姿を読み込んでいる。そのうえで、高島の歌と瀬口真司のこんな歌を比較して現在を考察している。

   二十三区の夜景の黒い本丸よ・何度もジャングルを生き延びて  瀬口真司

高島の歌と、瀬口の天皇制に対峙する南方帰還兵の思いとを並べて、「うつろな身体をした影絵のような日本の姿が浮かび上がる。」と穏当にコラムをまとめている。ただし、コラムの隠れた意図は、やはり、ここ半年くらいの(参院戦前後からの)の右翼的言辞とかヘイトスピーチとか反動とかの風潮にあわせて、あえて一年前の高島の歌を取り上げて、「歌と時代」を検証し、歌の持つ危うさを提示しておきたい、ということろではないか。

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さて、上掲の三首についてだが、まあ、「これはアカン」というのが私の感想。歌の中にこれだけストレートに政治的主張(願望?)が入ったり、憎しみが直截にでてるのは、まあ普通に「不快」でしょうね、読み手には。ネトウヨは喜ぶだろうが、保守的または右翼的な考えに賛成の歌人や一般の読者でさえ、こんなふうに歌っていいわけないよなと思う人もけっこういるはず。

まあ、失敗作は高名な歌人でもたくさんある。吉川宏志は上記のコメント中で、斎藤茂吉に触れこんな歌を紹介している:

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私は、中野重治の『斎藤茂吉ノート』の一節を思い出していた。茂吉には女性蔑視の歌がしばしば見られる。

  宋美齢夫人よ汝が閨房の手管と国際の大事とを混同するな  『寒雲』(一九四〇年)        

 宋美齢とは、蒋介石の夫人であり、日中戦争のとき、ルーズベルト大統領らと親交することにより、アメリカの軍事的な協力を引き出したのである。茂吉はそれを性的な比喩を用いて罵倒したのだ。

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茂吉は好きな歌人なのだが、戦時中とはいえ、こんなものを発表することもあったわけで、一方でそれを批判した人も当時でさえいたということに、吉川はほっとしている。

ところで、高島はどんな歌人なのか、初期の有名な歌集『旧制度(アンシャン・レジーム)』(1998)

     撃ち堕とすべきもろもろを見据ゑつつ今朝くれなゐの橋をわたらな

     銃声の繁くなりゆくパルコ前間諜ひとり撃たれて死にき

     飢ゑはつのり指揮はみだれつつコミューンは己が内よりくづれ初めにき

などなど。なかなか良い。高島は岡井隆に師事し、この詩集は塚本邦雄に激賞された。もともと政治的な(観念的な)歌風なのかな。

この作者については、以下のコラムがかなり詳しく解説している。

https://petalismos.net/tanka/tanka-backnumber/tanka50.html

「紊乱者」については、失敗作ということで、少し頭冷やして、またいい歌を書いてほしいもの。

    

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