『襷がけの二人』嶋津輝(文藝春秋)  ㊗嶋津さん『カフェーの帰り道』直木賞受賞

『カフェーの帰り道』が受賞とは知らず、その前の2023年の長編『襷がけの二人』を借りていて、さっそく読了。こちらも大変面白かった。というか、夕方3時ごろから読みだして、10時に読み終わっていた。「巻を措く能わず」という言葉通りの本。
この作品、2023年下半期の直木賞最終候補に選ばれていて、その回は河崎秋子「ともぐい」と万城目学「八月の御所グラウンド」が受賞。「襷がけの二人」は惜しくも次点となっていた作品。多くの評者から好感を持たれた作品。

嶋津輝女54歳×各選考委員 作家の群像へ
『襷がけの二人』
長篇 652
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員評価行数評言
京極夏彦
男60歳
28「戦争を分岐点とする主従逆転の構図や結果的に自立ではなく共棲を選択するに至る経緯などが細やかに、かつ巧みに描かれており、とても初の長編とは思えない。ただ主人公のコンプレックスを身体性に落とし込んだことで、そうした焦点がやや分散してしまった感があることは否めないように思う。」
浅田次郎
男72歳
22「あわただしい現実を忘れて、つかの間の小説世界にひたることができる。しかしながらこの時代に近い家庭環境に生育した私から見ると、うまく書かれているところと得心できぬ部分が半ばした。近代を舞台とした小説の難しさである。」
桐野夏生
女72歳
19「女が誰にも言えずに一人苦悩する姿を描いている点に深く共感する。」「市井の片隅に生きる女たちの世界を、女でしか書けない視点で描いた作者の勇気と筆力に感動した。」
高村薫
女70歳
22「主要人物の女性二人の姿が鮮明に浮かぶという点で、過不足のない小説の姿をしている。」「活き活きとした女性たちに比べて男性の登場人物たちがみな輪郭も個性もないのは、作者の眼中に初めから男性が入っていないということだろう。その意味で、女性たちだけで完結している世界はちょっと歪でもあり、その歪さが本作をまさに小説にしているのだと思う。」
林真理子
女69歳
12「女性二人がかもし出すなんともいえないユーモアが、この作品の魅力であるが、やはりいろいろな解釈が出来る。女中と奥さんという格差が、たやすく入れ替わるものだというテーマの他に、女性器のルッキズムという全く新しい主題も込められていた。」
三浦しをん
女47歳
24「(引用者注:「八月の御所グラウンド」と共に)推した。」「市井に生きる女性の生活と人生に焦点を当てながら、説得力をもって時代のうねりを描くという試みが成功している。独特の肌ざわりと余韻が残るのは、この作者にしか書けない、ちょっと変わった着眼点が随所にあるからだろう。」
宮部みゆき
女63歳
81「嶋津さんのことをもう少しよく知るために、デビュー短編集『駐車場のねこ』を読んでみました。すると、嶋津さんが作家として(少なくとも今現在)こだわりと興味を持っているのは、男女を問わない人間の身体性だと理解することができました。」「正直、男性読者には勧めにくいタイプのお話なので、老若男女に読んでもらいたい直木賞には向いていない(だから落ちたのではなく、合わなかったのだと思ってください)作品でしたが、『八月の御所グラウンド』と決選投票になるくらい、評価は高かった。」
角田光代
女56歳
25「なんとも妙味のある小説だった。」「千代ののほほんとした性格が、彼女自身を守りもするし他者を傷つけもする、そのさりげない描きかたも巧い。」「主だった千代がのちには使用人に、使用人だった初衣が主となることで、私たちの役割や立場などさしたる意味がないのではないかと思わせる説得力がある。」

東京下町。大正15年に平凡な家庭から親の友人の息子のところに嫁いだ千代。そこには二人の女中さんがいて、特に年上の女中初衣から、家事のすべて、なかでも一般家庭とは思えないような料理の数々を学んでいく。一方で夫とはなかなかうまくいかず。初夜で失敗して、長く気まずい思いを続けている。でもそれ以外は千代はずっと幸せだった。芸者をしていた初衣の過去も明らかになり、それでも実母以上に母のごとく姉のごとく初衣を慕う千代。二人と若い女中のお芳の三人の「ガールズトーク」的な雰囲気がなかなか良くて、読んでいて快適。むろん嫌なこと日常の齟齬はそれなりにあるのだが。そして、やがて時代は戦争へ。東京大空襲を経て、運命がすっかり変わった三人のその後。

女同士の「バディ小説」の風情で、三浦しをんの「お稽古事・師匠」小説風でもあり、戦前の家庭料理読本でもあり(何しろ一般家庭で牛タン一本買ってきて、料理を作るのだから)、読みどころ結構あり。ただし、男性にとって結構ショッキングな場面もあって、これ、基本は女の小説だよなとも思った次第。

面白いです。お勧め。『カフェーの帰り道』を早く読みたい。

コメント