社会派ミステリーの柚月裕子さん、このジャンルはあまり読んでこなかったので、柚月さんもこの『慈雨』が初めての作品。まず面白くて一気読みしてしまった。
いわゆる刑事ものの社会派ミステリーだが、犯罪を弾劾し犯人を追い詰めるだけではなく、市井の人との交流とか、妻と娘と三人での暮らしとかも描かれて、人情物の側面もある。
退職した刑事神場が妻香代子と二人で四国の八十八か所巡りに出る。元刑事神場には、忸怩たる思いをしたある幼女誘拐殺人事件の記憶が抜けなかった。あれは冤罪だったのではと。旅の途中で同じような事件が自分の勤めていた県警管轄で発生する。事件捜査は元の同僚で二つ若い鷲尾が指揮し、神場の娘の彼氏である緒方も担当になっている。退職した身ではあったが、以前の事件を想起させる新しい事件に、神場は緒方と連絡をとりあうようになる。
四国の旅と、事件の進展と、過去の思い出とが交錯しながら、旅の終わりに向けて少しずつ事件が解明されていく。神場の固い決意が、最後の最後でほぐれ、香代子との絆がより深まっていくところは、なかなか心打たれた。
トリックとか意外性とか、その手のミステリーではなく、刑事の地道な取り組みがやがて功を奏する形で、まあリアリティがある分、謎解き的な部分は少ないタイプ。むしろヒューマンドラマですね。主人公がかなり頑固おやじなので、合わない人もいるかもしれないが、登場人物は犯人以外、あまり不快な人はいないので安心して読めるかも。犯罪自体はえぐいです。
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