『失われた貌』の櫻田智也さんをもう一冊読んでみる

2017のデビュー作『サーチライトと誘蛾灯』は、東京創元社の雑誌『ミステリーズ』の新人賞を取った作品で、5つの短編諸説集。新人賞はその最初の『サーチライトと誘蛾灯』に与えられたもの。
受賞作を含めいずれも50ページくらいの読みやすいミステリー連作集。通しの主人公で無類の虫、昆虫好きの青年が様々な事件にでくわして、その犯人捜しの謎を解くというスタイル。主人公の 魞 沢(えりさわ)という男性が今一つキャラ立していないのが難点か。もっとはっきりとした性格を持たせた方がいいかも。トリックは表題作が一番面白かった。確かに賞をとっただけのことはあるかな。ただし、全体的に事件の犯人、被害者などのリアリティが、何しろ短編のせいもあるけど、やや不足か。謎解き部分は結構面白いし、全体を通して、コミカルさを狙っている部分は、悪くはないと思えた。

先日の『失われた貌』が、「文春」とか「このミス」「読みたい」の三冠を勝ち取ったわけだが、この短編集と比べればはるかに小説の力量は上がったんだなと思えた。主人公の警部補や同僚たちのかき分けが(やや煩雑なところもあるが)ある程度できあがっていて、そのまま次の作品に(次の事件に)移行しても、大丈夫かなと思える点など、人間の描き方がよくなっていると思えた。なんだろう、ちょっと違和感があるのは、犯人像が魅力が乏しいということ。それはこのデビュー作でもいえる。もう一つ、この作品で、「すべりがち」ながらジョークが何か所かでてくるのだが、これって『サーチライト…』のあのコミカルな雰囲気の継承でしょうか。櫻田さんの一つの指向ですね。
書き出しが遅かった(多分40歳くらい?)なのでこれからが楽しみな作家です。

ちなみにミステリー三冠だけど、米澤穂信が4回とっていて、それほど珍しいことではない。米澤の『満願』『王とサーカス』『黒塞城』『可燃物』がそれで、確かにどれも面白いのだが、それにしても一人で四回って、どうなのと思う。人材不足でしょうか。

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