『福音派ー終末論に引き裂かれるアメリカ社会』加藤喜之(中公新書)

アメリカは一体どうしてこうなっちゃたんだろうと、ずっと思っていたら、この本を読んでだいぶすっきり。現代アメリカを理解するのに、「宗教」部分を抜きにしては語れないのだなあと改めて思った次第。2025年9月25日初版。読みやすく、わかりやすいいい本です。

タイトルの「福音派」だが、これはアメリカのキリスト教の主流であるプロテスタントの一つ。主に南部で勢力を伸ばしている宗派である。アメリカ人のうち、キリスト教徒は約63%で、その3分の2の41%がプロテスタント、カトリックが21%。ちなみに無宗派は30%強。プロテスタントの41%のうち、南部を中心とした右派の福音派が24%、比較的リベラルなメインラインプロテスタントが14%、歴史的黒人教会が3%だとか。要するに、アメリカ人の24%が福音派だということ。

福音派の信仰はさておき、政治との関りを述べると、一番は妊娠中絶への反対、進化論の否定、同性婚やLGBT権利拡大への反対がメインの主張で、共和党を支持する人がほとんど。本書では、第二次世界大戦、冷戦以後反共産主義の立場をとり、ニクソン、レーガン、ブッシュなどとの関りを強めた。ただし、民主党でも、カーターやクリントンとの関係も強かった。オバマ以降は民主党と決定的に対立し、必ずしも福音派とは言えないトランプを支持している。
福音派の中に明白にある白人中心主義主義や人種差別的価値観が表に現れるようになる。黒人のオバマでは嫌なのであろう。さらに中流から零れ落ちていったプアホワイトを「あいつらのせいだ」などという簡単なレイシズムと陰謀論に巻き込んで、不気味な世論の形成に一役買っているといえよう。民主主義の基本である、お互いの立場を尊重するとか、議論を尽くすとか、そのような態度はもうなくなり、自分たちの仲間の声だけを聞き、相手を追求するだけの姿勢をとるようになり、もう断絶は埋めがたい状況になっていった。

以上、ごく簡単な流れの紹介で、疑問を持たれた方はぜひご一読を。筆者の立場は「科学的」で「合理的」である。今のアメリカ政治は民主的か強権的か、是か非か、お読みになって判断されるとよい。

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