今年読んでよかった本ベスト10など
★フィクション
1.「黄色い家」川上未映子(中央公論社)
図書館で順番待ち50人、ようやく回ってきた本。2023年読売文学賞。「犯罪」を扱ったもので「ヒューマン」と正反対な内容。最後にとんでもない結末が待っている。すごい本だった。
2.「カフネ」阿部暁子(講談社)
2025年本屋大賞受賞。こちらはとっても「ヒューマン」で本屋大賞らしい。家事代行サービスの「カフネ」をめぐる、人の出会いと小さな幸せの話。
3.『プロジェクト・ヘイル・メアリー』アンディ・ウィアー(早川書房)
処女作『火星の人』は映画化され『オデッセイ』に。こちらも作品も映画化され26年に日本でも公開される予定。「火星の人」の雰囲気はそのままで、舞台はさらに広がっている。同じ作者の『アルテミス』は月の世界の話。こちらは他二作と違って仲間がいっぱいでてくる。
4.『ハンチバック』市川沙央(文藝春秋)
市川さんが受賞されたときの報道が、やはり「障碍者」のイメージが前面にでていて、本を手に取るのを少しためらってしまって、そのままになっていた。差別的なものではなく、なんとなく社会的メッセージがあってそれを受け取るのがしんどい、みたいな。
馬鹿だった。これは本当に素晴らしい小説だったな。もちろん障碍が前面にでている、でもそれ以上のものが、あふれ出てくる。強い意思、強い反骨があって、きつい現実にへこたれない姿がとてもいさぎよい。明るさと強さを持った女性。
5.『植物少女』朝比奈秋(朝日新聞出版)
朝比奈さんは現役の医者。医療系のテーマの小説を書き、『サンショウウオの49日』で一昨年芥川賞をとった。「植物少女」のほうがより一般的で、面白く読める。
6.『この世の喜びよ』『ここはとても速い川』井戸川射子
井戸川さんはまだ数冊しか出していないけど、まさに純文学の申し子。このあとテーマが広がって、小説の分量も増えればトップになれる人だと思う。詩のように美しい文体。
7.『黒牢城』米沢穂信(KADOKAWA)
ベテランの米澤さんのちょっと古い時代もの小説。黒田官兵衛が「羊たちの沈黙」のレクター博士みたいになってるんです。
8.『東京都同情塔』『School girl』『悪い音楽』九段理恵
「同情塔」は芥川賞作品で、現代東京の風景がパラレル的に描かれるSF。同情塔とはは「刑務所」です。「School girl」 も「悪い音楽」もどっちも楽しい。
9. 『DTOPIA』安堂ホセ(河出書房新社)
ブラックミックス(アフリカ系混血)を扱ったものが安堂さんのメインテーマ(今のところ)。これもそう。暴力と血の匂いとLGBTとドラッグ、飛び跳ねるような文体で若々しい。
10.『ツミデミック』一穂ミチ(光文社)
うまいなあと思う作家。短編集でどれもコロナのパンデミックにあわせてる。破綻なくストーリーがまとまっている。自分にはちょっとスモールワールドって感じも。
選外:『失われた貌』櫻田智也
今年のミステリー三冠という鳴り物入りの作品。井坂とか恩田とか米澤とか大御所が帯で絶賛し、カラーの新聞広告も出たりして、満を持して読んだのだが、あれれという感じ。普通のミステリー、警察小説でとっても地味。トリックもまあ普通で、何より長くてちょっと退屈なんだが、こっちの感覚が鈍ってきてるのかなあ…
★ノンフィクション
1.『福音派ー終末論に引き裂かれるアメリカ社会』加藤喜之(中公新書)
アメリカ人のカトリックの福音派の数は、人口の20数パーセント。それでもかなりの影響力を持つ宗教団体で、なおかつ一番政治的。共和党支持者がほとんどで、人工中絶反対、LGBT嫌い、白人至上主義が基本。甘っちょろい(?)「民主主義」では太刀打ちできないほど強固な信念。アメリカ近現代の政治の裏側がよくわかる。
2.「スガモプリズン」内海愛子(岩波新書)第二次世界大戦の戦犯を収容した巣鴨の刑務所。BC級戦犯もたくさん収容されており、その中で、小さな社会があって、出版活動もあったとか。知られていない終戦直後の日本史の一つ。
3.「日ソ戦」麻田雅文(中公新書)
1945年8月8日ソ連参戦。満州、朝鮮半島、樺太、千島列島に押し寄せたソ連軍。在留日本人の悲劇、日本人を見捨てた最悪の関東軍。このあたりまでは、よく知られている事実。この本では、その悲劇の一つずつを詳述している。
4.「となりの陰謀論」烏谷昌幸(講談社現代新書)
11月の新聞書評で取り上げてあったので買ってみた。主にトランプの選挙戦で戦略として使われた「陰謀論」を詳細にとりあげたもの。
5.梯久美子「好きになった人」と「ユーモアの鎖国」石垣りん(両書ともちくま文庫)
ノンフィクションライターの梯さん。彼女のライフワークと言える戦争と人間、特に沖縄、加計呂麻島、サイパン、広島などを訪れた様々な思いでを中心に書き進められている。無名の正しき日本人のこと。例えば、「ずゐせん学徒隊」のこと。「ひめゆり部隊」が一番人数が多かったので語らえることも多いのだが、ずいせん隊にも61人が動員され33名がなくなっている。宮城さんという方がその墓守を今もなさっている。ひめゆり隊の慰霊碑のそばにずいせん隊の慰霊碑もあるが、花で覆われたひめゆり隊の墓に比べ、ずいせん隊の墓には一輪の花もなかったとか。誰も語る人もおらずやがて歴史の闇に消えていく、そんな小さな人間の営みを梯さんは等しく我々の前に届けてくれる。遺骨の骨を洗う話、石垣りんのサイパンの崖から身投げする女性たちの詩、島尾ミホの話、どれ一つとして、胸をうたずにはいられない。梯さんの本のあと、そこに紹介された石垣りんの『ユーモアの鎖国』を読む。「銭湯の花嫁」の話に思わずもらいなき。古い本だが、今年再度出版された。どうしてかな。
コメント
コメントを投稿