傑作SF「火星の人」のアンディ・ウィアーの第二作目「アルテミス」
「火星の人」は本も、映画もあまりに傑作だったので、たまたま目にしたこちらを借りてみた。上下あるが、それほど長くはなく、アクションものなので一気読みしてしまう。
21世紀後半の話。月に人類が基地を作り、そこに移住する。アルミニウムなど鉱物資源を採取する仕事もあるが、メインの産業は「観光」。5つある巨大なバブル状の建物に2000人が暮らし、地球からの観光客を受け入れている。月長石からアルミニウムを精製する過程でふんだんに酸素が取り出せるため、真空の月面でも頑丈なシェルターがあって問題なく暮らしていける。
6歳で地球から移住し、20年も月に暮らすジャズ(女性)が主人公。優秀で職人肌の技師である父とけんか別れをし貧弱な部屋で一人暮らしをしている。仕事はポーターで地球との輸出入を扱うが同時に禁輸品も扱ってやや問題児的な存在。月では裕福な層と観光などの産業を支える労働者層と貧富の差がはっきりしており、ジャズも一攫千金を狙って仕事をしている。ある時、トロンドという裕福な実業家の依頼を受けて、ある重機の「爆破」作業を請け負ってしまう。作業はあと一息というところで失敗するのだが、そこから、ジャズは大きな陰謀に巻き込まれていく。そんなストーリーが前半。後半はノンストップアクション風にというか、ミッションインポッシブル風というかなかなか派手な展開。
月面で船外活動EVAを行う組織があり、ジャズもそこに入ることを目指しているが、今一歩のところで合格できない。それでも小さなタウンのこと、EVAには知り合いもおり、父を通しての技師仲間もいる。後半でその仲間たちが、「悪」の組織との戦いに団結して立ち向かうことになる。アクションはジャズが担当、他の仲間はそれぞれの得意分野で、という形はわりとパターンかな。いがみあっていた父親との確執もやがてとけていき、印象的な和解の場面もよかった。
何より魅力は、「火星の人」でも見られた科学知識の圧倒的な量。それを素人にも(ある程度)わかりやすく書きながら、ピンチに陥るたびにジャズをなんとか覚醒させていくあの技法。なるほどと思ったり、それでもはらはらさせられたりと、ここは「火星の人」の流れと同じ。
圧倒的な前作の想像を絶する展開と比べると、やや平凡な善悪の戦い部分もあるので、今一つの感はあるが、なにしろ前作が素晴らしすぎるので、ね。いい本でした。これもお勧めの一つ。今度はアンディ・ウィアのもう一作「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を読む予定。ウィアさん、何しろ寡作なのでこの三冊しかでていない。アメリカの国立の研究所で現役のプログラマーをしながらの作家活動なので仕方ないのかも。ちなみにお父さんは素粒子の研究者だとか。科学知識は本物です。
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