「作家と山」平凡社

2025年8月初版。50人弱の作家、登山家、学者など、山に登り山に惹かれた人たちのエッセイを集めた本。どれも短くて、小エッセイ風なので一気に読める。小島烏水とか若山牧水とか、牧野富太郎とか正宗白鳥とか、ものすごく古いものもあるし、沢野ひとしや湊かなえ、安西水丸など若い人たちの物も。ちなみに表紙は串田孫一。
山の話、山関連の話だけなので、山歩きする人以外はあまり面白くないかも。そもそも平凡社さんがなぜこの本を作ったのか、ちょっと不明。売り出しの仕方も特に目立たず企業戦略的なものはないのかな。
それはさておき、しょっぱなから、井伏鱒二の「なだれ」という詩。

嶺の雪が裂け
雪がなだれる
そのなだれに
熊が乗ってゐる
あぐらをかき
安閑と
莨(たばこ)を吸ふやうな格好で
そこに一匹熊がゐる

なんていうんでしょう、春山の風景として、実にぴったりの詩。昨今の「クマ憎し」的風潮とは別の世界ではある。
続いて、芥川龍之介の「槍ヶ岳紀行。」芥川らしいシャープな文体で、どこか不穏な雰囲気をまといながら、新島々から徳本を越え月初版。50人弱の作家、登山家、学者など、山に登り山に惹かれた人たちのエッセイを集めた本。どれも短くて、小エッセイ風なので一気に読める。小島烏水とか若山牧水とか、牧野富太郎とか正宗白鳥とか、ものすごく古いものもあるし、沢野ひとしや湊かなえ、安西水丸など若い人たちの物も。ちなみに表紙は串田孫一。
山の話、山関連の話だけなので、山歩きする人以外はあまり面白くないかも。そもそも平凡社さんがなぜこの本を作ったのか、ちょっと不明。売り出しの仕方も特に目立たず企業戦略的なものはないのかな。
それはさておき、しょっぱなから、井伏鱒二の「なだれ」という詩。

嶺の雪が裂け
雪がなだれる
そのなだれに
熊が乗ってゐる
あぐらをかき
安閑と
莨(たばこ)を吸ふやうな格好で
そこに一匹熊がゐる

なんていうんでしょう、春山の風景として、実にぴったりの詩。昨今の「クマ憎し」的風潮とは別の世界ではある。
続いて、芥川龍之介の「槍ヶ岳紀行。」芥川らしいシャープな文体で、どこか不穏な雰囲気をまといながら、案内人とともに新島々から徳本を越え梓川を渡り、かつての嘉門次小屋へ。一晩を過ごし、急斜面を次の宿となる無人の岩室へ向かうのだが…。

「何だい、あの鳥は」
「雷鳥です。」
小雨に濡れた案内者は、強情な歩みを続けながら、相不変(あいかわらず)不愛想にこう答えた。

ここでこの短編は終わっているのであった!いや、槍ヶ岳紀行ですよね。このあとどうなるのか、どうして編集者はここで引用をやめたのか、だれでも続きを読みたくなるので、さっそく「青空文庫」で検索したら、なんと芥川、実際にここでやめていた。どういうこと?
いきさつをネットでしらべても、正解はわからず。なぜ登頂の様子を書かないのか読者はだれも不思議に思っているよう。実は芥川は友人たちと槍ヶ岳に登っており、それはなんと17歳のこと。その記録は同行した人のメモに残っているのだが、その人のメモも詳細ではなく、芥川が同行したのは確かだが、山頂までたどりついたのかどうかは不明の様子。詳細はわからず。
この短編の設定はもう少し年をとってからの、案内人一人を連れた登山のようだが、それは小説の設定で実際は若いころ経験を書いているのだとか。不思議な話。

たくさんの作家がそれぞれの個性でエッセイを載せており、まずいろいろ楽しめる。面白いものも、よくわからなものも。読書が好きで作家のイメージが大体掴める人なら、かなり楽しめるのでは。
辻邦生「三俣蓮華岳への思い」池澤夏樹「白馬連峰ー山という別世界の花」志水哲也「尾の沼谷」などは、格別に。

 

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