「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ(中央公論社)

映画のほうの画像を利用したけれど、書評です。




2021年の本屋大賞をとっており、かなり売れた本なので、読まれた方も多いかな。杉咲花と志尊淳で映画化されており、これネットで予告編の動画しか見てないけど、このキャストは二人とも好きな若手なので、機会があれば見てみようかなと思う。

小説は、児童虐待をテーマにした結構重い内容なのだが、善人悪人がはっきりしていてわかりやすく、勧善懲悪的にストーリーは進むからまあ安心して読める。主人公の女性キナコ(20代半ば)が一人で海辺の町に引っ越してきて、そこでみすぼらしいなりをした少年52に出会う。52は虐待を受けていた、それを見抜いたキナコも子ども時代からずっと親から虐待を受けてきたのである。キナコを虐待の絶望から救ってくれたアンという男性との哀しい別れのあと、キナコは今度は自分が52を救おうとする。周りの友人たちの協力を得て、52とかかわっていく中で、キナコもまた救われ、成長していくのであった。

この小説が広く読者から支持されているのは、まずストーリーの展開の早さ。それぞれの出来事がドラマチックに(ちょっときつめに)描かれており、なおかつ時間軸を少し行きつ戻りつすることで、ミステリー風味(謎解き)も付け加わって、読者にページを繰らせる点。そして、親から「ムシ」と呼ばれていて、主人公の女性に「52」と名付けてもらった少年の純粋な心と行動に涙を誘われるだろう。

少し気になるところも。キナコの高校の同級生とその同僚のアンが絶望の淵にあったキナコを助けてくれるその無償の愛のようなものが、どこから来ているのか、書き込まれていないので少し違和感あり。また、アンにももう一つの重いテーマを背負わせているのだが、ちょっと詰め込みすぎの感がぬぐえないかな。別ストーリーで深堀りしてもいいくらいの内容なので、バランスが悪い感じ。職場の社長の息子との関係も、キナコの人物像として、ちょっと違うんじゃないかという感じがするのだけど。などなど、言葉は悪いがちょっと「粗い」筋運びで、全体が煮詰まりすぎてる印象。
ただし、この作品の展開の意外性とスピード感とリアリティある虐待描写、そして正しいものが救われていくその爽快感、52という少年の可愛さ、せつなさなどが、
多くの読者をひきつけてやまないのはとてもよくわかる。よい小説であるのはそのとおり。








 

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