「アザミ」綾木朱美(講談社) 群像新人賞作品

 2025年8月初版。今年の群像新人賞受賞作品。綾木朱美さんは30歳で、これが公に初めて書いた小説のようだ。

マスメディアの校正の仕事をしている「アザミ」が主人公で、30歳で独身で働く女性の日常を描いている。部屋と職場を往復し、日々スマホを片手に仕事の合間にSNSをチェックし、気になったアイドルのスキャンダルについて、暇を見てはコメントを読み続けているような毎日。淡々と暮らし、人とのコミュニケーションにはあまり没入せずマイペースで生きているのだが、夢見が悪い、体調が不良である、生理不順である、などなどアラサーの「だるさ」が漂っている。
職場の隣の席の年下の男性とか、定年間近の上司とか、古くからの友人の同期の女性とか、あるいはけがをしたときに部屋に荷物を運んでくれた若い女性とか、数少ないけれど他人との関りが、印象的に描かれていて、だるさの中のアクセントに。SNSの世界でコメントを延々と書く人、読み続ける人、アイドルの押し活に励む人、それをくさす人。そういう世界にはまる人間が確かにいるんだなと、わかる。

しかし、メインはこの表層的なネット世代の「孤独感」とか「孤立感」といったものだろう。そして「都市」の無機質な空間や、都会の音、通勤の音、雑踏の空気などと連動していく体の不調感、そうしたものが小説全体を通して描かれている。

今回の処女作は、主人公を自分にひきつけて書いているので、それは正確に詳細にそして不思議な魅力とともに描かれているのだが、何度も使える手ではないだろう。今後はどんなテーマで書いていくのか、どんな女性を描いていくのか、気になるところ。エンタメとは正反対の小説なのだが、それは面白さとは遠い、というわけでは全くない。なかなか上手い作家だと思う。


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