2023年2月初版、その年の読売文学賞を受賞。当時、図書館で予約をしようとしたら50人くらいの「待ち」がはいっていたので、恐れをなして予約せず。今年の夏あたりからようやく書棚で見かけるようになった。600ページある鈍器本なので、ようやく意を決して借りて…2日で読了。すごい本でした。
10代後半の少女たち3人と一人の大人の女性が出会い、一緒に暮らし始めた。いずれも貧困や家庭崩壊の中で育った子どもたちが、自分たちだけのスナックを持ってわずかな収入とわずかな希望をもって生き始めるのだが、ある日スナックの入っている雑居ビルが燃えてしまい、そこから運命が逆転していく。犯罪に手を染め次第に深みにはまり、少女たちの共同生活も危うくなっていく。
1990年代から2000年代にかけて、サブカルチャー、アングラカルチャーを背景に、ドロップアウトして落ちていく少女たちの生態と貧困と。しかし、その中にあって、生きること、真摯であること、仲間を助けること、自分を救ってくれた人を守ること、その意味を主人公は問い続けている。
賭博や詐欺犯罪、ドラッグ、酒、お金への妄執。押しつぶされそうになりながら、幾人も押しつぶされていく人を見ながら、主人公の「花」は「崩れない」。それは見事。だが、崩れないことは同時に狂気の世界に踏み込むことでもあった…ノワール小説と呼ばれるが、それはそれはすさまじい「青春小説」でもある。一気読みさせる筆力が、とにかく鬼気迫るほど。でも川上さん、これ読売新聞の連載で書いたんだよな…
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最後に一つだけ残る疑問。黄美子さんは、本当はどっちなのか。新聞に載っていた事件の黄美子と花が見ていた黄美子とどちらが本当なのか、それは小説では明かされず。ある種「狂気」の時間の中で、現実と夢と記憶が混ざり合っているよう。
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読みながら、東山彰良の「流」「僕が殺した人と僕を殺した人」を思い出していた。ノワールで青春で、そしてあっちは男の子、こっちは女の子で、ちょっと時代が違うから子どもたちの精神性も違うし、展開はちょうど裏返しのポジネガなのだが。
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川上未映子の「乳と卵」「夏物語」が好きな人なら、多分、楽しく読める。あの系統です。
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