2016年初版のちょと古い本。平野敬一郎は「ある男」以来で、軽量文学とは正反対の文体もテーマもやや重めの作家だと思う。
2019年に映画化されていて、メインキャストは福山雅治、石田ゆり子が演じている。
クラシックギタリストの蒔野聡史と、フランスの通信社に勤める国際ジャーナリスト小峰洋子の恋の話で、どちらも40歳前後、洋子のほうが年上の設定か。蒔野のコンサートを洋子が聞きに来ることで二人のつきあいは始まるのだが、それぞれ海外での仕事も多くなかなか会う機会がもてない。洋子はイラクで取材中あやうく自爆テロに巻き込まれそうになり、それがPTSDとなっている。また洋子はすでにアメリカ人のリッチな経済学者と婚約しており、恋が始まるにしても多難な予感。
洋子の父は著名なユーゴスラビアの映画監督で、洋子が幼い時に両親が離婚しており、蒔野はその映画をよく知っておりその主題歌も彼のレパートリーであった。洋子と父の関係と幼いころの秘密なども重要な筋の一つ。リーマンショック前後のグローバリズムとイラクの内紛など、世界的な政治状況も二人の人生と恋に影響を与えている。
主要なサブキャスト、マネージャーの早苗や洋子のフィアンセのリチャード、なども含めそれぞれが独自の性格付けをされストーリーの中でそれなりの位置をしめ、たんなる二人の盛り立て役ではない。
音楽、グローバリズムとアラブ中東の混乱、映画と文学と芸術と。2000年台の世界を重層的に描き切っていて、作者の深い知的洞察も読みごたえあり。ただし、「重厚」すぎて読んでいてちょっと重いと感じたのも確か。いまこのように息苦しく「愛」をかく作家はいるんだろうか…などと感想。
余談だが、蒔野が弾くバッハの「無伴奏チェロ組曲」のギターバージョン、自分もこのプレリュードを今練習していたところ。やっと楽譜を追えるくらいになったばかりで完成するにはあと5年はかかりそう。ジョン・フリーリーの演奏をBGMにしながら読んでいたところ。でまずまず楽しめました。
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