「植物少女」朝比奈秋(朝日新聞出版)  今年読んだベストワンだろうな

2023年の「三島賞」受賞作品。朝比奈さんは2024年の「サンショウウオの四十九日」で芥川賞をとっている。ちなみにこの年は「バリ山行」も同時受賞だった。
朝比奈さんは現役の医師で消化器内科専門だったが、現在は病院を退職し、フリーの医師となり、医師業はお休み中だとか。「…四十九日」も「植物少女」も、医師でなければ書けないような人間の体と心と病のことが、正確にしかもわかりやすく描かれており、小説のテーマや文体やストーリー展開の底で、安定した枠組みと根拠があって、安心して読んでいける。上手いだけでなく、「本物」の書き手だと思わせる。

出産時に脳内の異常によって植物人間になってしまった若い母親と、その時生まれた娘との親子の交流の話。小学校の頃、高校の頃、そして大人になってから。病室で母と向かいあう娘の姿が、その成長とととも描かれ、年とともに母への思いも成長していく様子が、青春期の一日を率直に、そしてリリカルに映し出されていく。

あるときは、母乳だけは出る植物状態の母に抱き着いて乳をのむ幼子。動かない母にスプーンでひと匙ひと匙食事をさせ、もう慣れてしまって同室の同じ状態の病人たちの世話もしてしまう小学生の少女。部活での軋轢で心に傷を負って、母に泣き言を言い、母をなじり、涙を流し、母に許しをこう高校生の少女。またあるときは、母を人形のように扱って遊んでしまう女の子。髪を金髪に染めたり、耳にピアスの穴をあけたり。

本当に限られた特殊な環境の中で、何も語らない、動かない母と思春期を過ごしていく少女の物語は、これは自分が初めて読んだ類のもの。本当に美しい物語だった。
やがて少女は結婚し妊娠し、子どもが生まれ、母は亡くなる。そのときの別れが、また泣ける。とてもいい別れだった…

三島賞にふさわしい優れた作品で、自分的には今年読んだ小説のうちベストワン!

コメント