2022年前期直木賞作品。 5つの中編を集めた小説集、ひとつずつは50ページほどで、一気読みしてしまう面白さ。
微妙な既読感があって、いろいろ考えているうちに、ああこの世界はちょっと山本文緒の「プラナリア」に似てるかも、と。
家族の話であり、夫婦の話であり、恋の話、別れの話である。時はコロナの時代。
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一作目の「真夜中のアボカド」は、30代初めの独身女性、一年前に双子の妹を亡くしており、その夫と喪失感を共有する。婚活アプリで知り合った男性との出会いと別れもある。
二作目の「銀紙色のアンタレス」は、高校一年の男子が海辺の町に祖母を訪ねてひと夏を過ごす話。幼馴染の女の子とのふれあいと、幼子を連れた若い人妻へのほのかな思慕も。
三作目は「真珠星スピカ」。中学一年の女の子の話。母を亡くし、父と二人暮らしで転校したばかりの中学でいじめをうけ、保健室登校を繰り返す。亡くなった母が霊になっていつもそばに現れて、励ましてくれるのだが、父にはその姿が見えない。やがて大きないじめ事件が起こる。危ういところで、彼女を救ってくれたのは…
四作目は「湿りの海」。主人公は38歳バツイチの男性。隣の部屋に越してきたシングルマザーの母と娘に次第に惹かれていく。アメリカに行ってしまった自分の元妻と娘に、その姿を重ねていくのだが。
五作目は「夏の随に」では、父母が離婚し、父に引き取られた息子が父の再婚相手の新しい母と生まれたばかりの弟と暮らす話。実の母には月に一度しか会えないし、継母は育児と仕事の疲れで少年につらくあたることもある。やがてやってくる破綻は。
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どの話も、哀しいトーンなのだが、救いのない話ではなく、ほのかな明るさが未来にある感じがいい。登場人物がどの人も悪意はなくきつくても誠実な人柄として描かれて、安心して読んでいけるというか。ただ、それで直木賞はとれるわけではない、もちろん。この五作が一つの小説集となり、「夜に星を放つ」という作品として完結しているとき、コロナの孤絶感と先行きの不安感に満ちた時代にでも人はこのように、夜空を見上げたりしながら、それぞれの日常を生きていたのだという、小さな傍証のようなものとしても読めるのがいいのでは。
どの作品が一番いいか、となると結構難しい。どれもかなり面白いのだが、どれかが飛びぬけてというのではなく、窪さんが書いていた時代におそらくは「この時代を描いてみよう」という気持ちで、連作的に書かれたもので、やはりうっすらと統一的なモチーフがあって、それが「どれかを押す」という気持ちにならない、そんな印象である。しいてあげれば「真珠星スピカ」か。多分一番の問題作ではあるが…
以下は2022年の直木賞受賞時の選評
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