李琴峰(リ・コトミ)さんは、1989年台湾生まれで現在35歳。大学まで台湾で過ごし、卒業後2013年に日本に来て、早稲田大学の大学院に入学。2017年に初めて日本語で小説を書いた。2021年本作の『ポラリスが降り注ぐ夜』で芸術選奨新人賞を受賞。同年、『彼岸花が咲く島』で第165回芥川賞受賞となった。両親とも中国人だし、中国語が母語だが、完全な日本語で小説を書き芥川賞までとるなんて、まずその天才ぶりに驚く。
本作はLGBTQというか、セクシャルマイノリティーを扱った小説で、新宿二丁目が舞台になっている。7つの短編で構成されているのだが、いずれも新宿二丁目のいくつかのLバーを舞台に、若い女性が入れ代わり立ち代わり主役を演じていくような、一つの話の終わりにでてくる女性が次の話の主人公になって、物語をつないでいく形。「セクマイ(セクシャルマイノリティー)」の若い女性群像の物語である。様々な様態の「セクマイ」の人たちがいて、それぞれに社会と自己の性同一のずれに悩みつつ、真摯に生きている姿は、その辛さもきつさももちろんあるのだが、読んでいて、なかなかすがすがしいくらい。
こういうテーマの作品は初めて読んだのだが、初めての小説がこの本でよかったと思った。「セクマイ」の人たちの日常とその思考が、正確に誠実に描かれているのである。現れる女性たちのどの人にも、共感を覚えてしまう。男性がほとんどでてこないのだが、違和感はなかった。
もう一つ。李さんのバックグラウンドのこともあるが、いくつかの短編では、故郷の台湾や中国のことも触れられている。2014年の台湾でひまわり運動というものがあった。台湾の立法院を学生と市民が占拠し立てこもるとう事件。その当事者の女性たちも描かれている。また、中国本土のある女性がシングルマザーに育てられていたが、父は実は天安門で殺されていたとか。天安門のことはいまだに中国最大のタブーで、台湾人とはいえ小説に書くのはなかなか勇気のいることなのかもしれない。こうした政治的事件が台湾字の女性によって小説に書かれる(日本語)とやはりリアリティが違うな。
読み終えて思ったのは、美しい本だったなあということ。李さんの小説はまだ少ないがこれからどんな風に進化していくのかと期待が強い。
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