中山七里はたしかデビュー作で「このミス大賞」をとった『さよならドビッシー』以来。まずまず面白かった記憶。今日は2018年の作品の『護られなかった者たちへ』をさきほど読了。こちらも一気読みで、ミステリーというか、ミステリー風味よりは社会派犯罪小説という味付け。日本の社会福祉制度とくに生活保護制度の問題点を大きくとりあげた点は、多分初めてで評価できる。ただし一方的に行政のやり方を批判的に描いているので、これはちょっと、関係者が読んだらどうなのっていう心配がある。2018年の作品なので、その後どんな評価を受けたのだろうか。
二つの連続殺人事件が起こり、被害者二人には共通点があった。かつて宮城県塩釜の福祉保健事務所に勤務し、生活保護を担当していたという点である。生活保護を申し出た老女の申請を拒否し、結果としてその老女は餓死に至る。この出来事に関係したもう一人の職員がいて、三番目の殺人が起こるかどうかという話。警察の追跡が間に合うか、その復讐譚が完成するのかのストーリーである。
手に汗握る展開で、ストーリーを追って一気読みした。読後感も悪くないのだが、上述したように、「生活保護」の問題で普通の市役所の役人が殺されちゃうのは、どうなのかなあという点がやはり、ね。
一つだけ引用。主人公が喧嘩をしたあと助けてくれた老女と親しくなり、その貧しい食卓で一緒に時間を過ごすことが多くなっていく。老女に感謝したいと申し出たときにこんな風な言葉を言われる:
「あたしやカンちゃんにしてもらったことが嬉しかったのなら、あんたも同じように見知らぬ他人に善行を施すのさ。そういうのが沢山重なって、世の中ってのはだんだんよくなっていくんだ。でもね、それは別に気張ってするようなことでも押しつけることでもないから。機会があるまでおぼえておきゃあ、それでいい。」
こういう恩人が貧困の果てに生活保護を断られ餓死してしまう、その無念さを書きたかったのかなと思うんだけどね。
2021年に映画化されて、阿部寛と佐藤健がw主演となっている。仙台が舞台で、大震災のことも関連している。
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