『蒼き山嶺』馳星周(光文社) 山岳ミステリー+冒険小説

2018年の作品。馳星周の登山をテーマにしたミステリー。これも抜群に面白い。

長野県警の山岳救助隊の得丸は、4月の白馬鑓付近で大学山岳部の同期、池谷と偶然出会う。警視庁公安課にいた池谷はすでに山歩きをやめていて、登ってくるその足元がおぼつかないほどだ。疲れ切った池谷を援助しようと白馬岳まで同行することになった。

やがて、池谷が何かに追われていること、そして目的地が白馬を越えて、栂海新道を下り日本海にでることだとわかる。偶然、そこに同じ同期だった若林の妹が現れる。若林は優秀なクライマーで卒業後8000m峰14座に挑戦しK2で遭難死していた。妹のさゆりは兄の遺体を探しにいつかK2に行こうと日々鍛錬していたのである。

池谷が足首を捻挫し、思うように歩けなくなる。そして下山をこばみどうしても栂海へ行くと二人を脅すようになる。得丸とさゆりがザックを持ったり、背中に背負ったりしながらサポートし、池谷は二人に銃を向けながら白馬を越え北に向かうのだが、そこに銃をもった謎の3人組が現れ、池谷と得丸を襲おうとする。果たして彼らは日本海にたどり着けるのか。池谷は公安で何をしていたのか。吹雪の後立山連峰稜線を、ケガをした男たちが進む。暴風と猛吹雪の中、追手と戦いながら。

白銀の北アルプス、後立山の描写が素晴らしい。雪山を歩いたことがある人なら、その美しさを思い描きながら、迫真の逃避行を追っていくことになるだろう。自らケガをしながら、ほとんど虫の息のかつての山仲間を背負い、一歩一歩よろけながら進む。足を止めてはだめだ、ゆっくりでも進むしかない、そんな状況を自分のことのように追体験しながら読むことになる。友情の物語であり、山への崇高な愛の話であり、何より諦めない男の心意気のストーリーで、最後まで一気に読ませる小説だった。

瑕疵はいくつかある。池谷と得丸とさゆりの出会いがあまりにも偶然であること。この描写ではいくら超人であっても遭難は避けられないのではないかとか。前回読んだ『少年と犬』でもやはり犬があまりにもスーパーすぎたという点とかあまりの偶然とか、同じような欠点があって、そうか、馳星周ってこういうのをとくに気にせず書く人なんだなあと思ったり。
山好きなら、きっと楽しめる本だと思う。

 

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