一人の女性の幼児期から50代になるまでの話を、昭和の時代のできごととともに描いていく。そのそばにはいつも犬がいた。あるときは飼い犬の、あるときは友人の家の、あるときは下宿さきの、すれ違う人々と散歩する犬と。
自伝的な色合いも濃いのだけど、こどもの目で耳で見聞きする大人の世界の「わからなさ」が、少しずつ形をとっていくのは、時間が過ぎ、大人になり、家を離れて、そして振り返ってみるから。一人っ子なのだが、必ずしも愛されず、理解されず、それでいて強い影響力をもっていた両親への、これは逆説的なオマージュなのかとも思った。
時代ごとのいくつもの小編によって、主人公の成長を追うのだが、そのタイトルが「ララミー牧場」「逃亡者」「宇宙家族ロビンソン」「インベーダー」と続いている。昭和のテレビ番組名で、ああなるほどねと思う。タイトルはほとんど筋とは関係しないのだが、微妙にマッチしていて、そのあたりのくっつき具合がまことにうまい。そして、何より、犬との関係。時代時代に一緒にそばにいた犬との付き合いが、べたべたせず、しゃんとしていて、心地よい。タイトル名とも少しずつ関係しているところもいい。
きわどいことも書きながら、下品にならず、ユーモアもあるし、あっさりしながら、知らずに人の奥底の深いところに届くような文体で、まことに感じが良い。姫野さんはこれからも読んでいく作家になるだろう。
受賞者・作品
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