年をとって涙腺が緩んできてるだろうけど、いやいや、泣きました…
2017年下半期の直木賞受賞作品です。2023年には映画にもなったようです。
宮澤賢治の父政次郎を中心とした、宮澤家のお話。賢治の誕生から37歳で夭逝するまでの一生を、父の目を通して描いた物語。聖人君子のように語られることもある賢治だが、小説では頑固でわがままで移り気で、勝手気ままでひ弱でとこれまでとはかなり違った賢治像を作りながら、父と子が、特に明治から昭和初期にかけて岩手花巻の家父長制の家の中で、どのように対峙し、父の厳しさと子への深い愛情を、というより執着に近い愛をどのように注いだのか、門井さんの独特な語り口(これは歴史小説の主人公みたいなとつとつとしてしゃべりにも似て)で語られる。
妹トシが限りなく「いいこ」で、賢治もまたその看病に心からの愛をこめて尽くしている姿は、その先のトシの運命を知っている読者には、なかな辛いものがある。トシの死があり『永訣の朝』の詩が作られ、それがどう書かれたか、なぜ父は激怒したのか、など。そして父はとことん賢治を許す。深い深い家族の愛があった、と門井は書く。
*それにしても、トシは本当に素晴らしく描かれていて、この部分が一番感動した。
賢治が日蓮宗にはまったこと、石の研究をしたこと、農学校で教えたこと、土壌改良の啓蒙を行ったこと、詩を書いたこと、童話を作ったこと、それは一つ一つが小さなピースで、門井はそれを重くは扱わない。描かれるのは、賢治というたぐいまれな才能を得た男の短い短い生涯と、それを見つめる父と母と妹たちと弟のまなざし、して家族の愛である。
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