『可燃物』米澤穂信(文藝春秋)


 『満願』『黒牢城』に続き米澤さんはこれで3冊目。このミス、ミステリーが読みたい、文春ミステリーベスト10と、2023年ミステリーランキング3冠を達成した作品で、著者初めての警察ものとなっている。警察ものと謎解きものが合体したというべきか。
 主人公の群馬県警捜査一課の葛警部が、町で起こる一見凡庸と思える事件の深層を、独自の勘と深い読みで謎解きしていく形で、5つの短編をまとめた連作小説となっている。
 葛警部はチームを率いるリーダーだが、どちらかと言えば一匹狼的な存在で、上司にも部下に煙たがられているところがある。人間的魅力は描かれない。描かれるのは葛警部のどこまでも細部にこだわっていながら、全体の見取り図をもって捜査にあたろうとする、ある種完全主義的な刑事魂のようなものだ。
 謎解きミステリーとしてみると、心理トリック的な面白さはあるが、リアリティという面で、少し作りすぎなところもある印象。でも上手い。重厚でスピーディで、整然とした流れがとても心地よい。いい作品だと思う。ただし、あまり明るくない。これは米澤作品の特徴の一つなんだが。


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