「高橋源一郎の『飛ぶ教室』」岩波新書
*以下ヤマレコの日記に掲載したものを、ここにも載せます。
2022年の本だけれど、いい本でした。源一郎さんのラジオ番組のことは聞いてはいたが、今はもうラジオ視聴習慣がなくなっていて、遅まきながらようやくその魅力に触れることになった。NHK「飛ぶ教室」の最初の語り、おそらくは5分くらいのところだけをまとめた簡単な本なのだけど、こんな短いのに、どれもしっかり読み応えあった。本書の中で二本の動画を紹介されているが、どちらも有名なものなんだとか。自分の無知とアンテナの低さがが恥ずかしい。
①指揮者ベンジャミン・ザンダーによる講演「音楽と情熱」の動画。
源一郎さんはこんな風に紹介:
「…ザンダーはクラシック音楽なんてもう誰も聴かないと嘆くのではなく、これは人間の魂に影響を与えて変えてしまうものだといい、実際に二十分の講演と短い演奏(ピアノ)の後、千六百の聴衆をクラシックファンにしてしまいました。なぜそれが可能だったかはご覧になってください。」と。その動画は以下に。いやあ、すごいですね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
②2020/11/13の「失われた時を求めて」という題での語りと動画。かつて有名バレエ団のプリマの女性が認知症を発症し、介護施設に入っているのだが:
「動画は、ヘッドフォンをつけた女性に、若い男性が何かを促しているシーンから始まります。それは無理だとでもいうような表情を見せる女性、そして、音楽が流れだす。チャイコフスキーの『白鳥の湖』です。彼女のヘッドフォンからも同じ音楽が流れていたのでしょう。その瞬間、彼女の表情が変わり、手がゆるやかに舞い始めたのです…」以下は次の動画で:音楽の力に圧倒されると同時に、何か哀しい気持ちにもなった…
本の最後の方に、太宰治の「十二月八日」という短編を紹介されているけど、戦時中文学者は体制翼賛かあるいは沈黙か、どちらかの態度しかとれなかった。その時太宰が書いたこの本は、真珠湾の12月8日のニュースが流れる日の話だけど、一見戦争賛美に見せて、実にしたたかに戦争批判が織り込まれているという源一郎氏の読み。さっそく青空文庫で読んでみました。
「…飛ぶ教室」の最後の方で太宰の「十二月八日」という作品を紹介されているが、これは読まなくちゃと思ってさっそく「青空文庫」で読了。短編です。源一郎さんの解説がないと、多分読んでもさらっと流していただろう作品、これを「目の前の読者のために、ではなく百年後の読者のために『嘘』ではないことを、太宰治は書こうとしました。戦争開始に浮かれ騒ぐ庶民の姿を冷静に見つめ、それを正確に記そうと努めたのです。」まさにこのとおりの作品でしたね。戦争賛美に誤解される向きもあるこの短編、このような読み方もあるのだという源一郎氏の指摘でした。
本の最後に特別付録としてついている短編「さよならラジオ」は、これも傑作でした。この人の長編はなかなか読みにくいがこの短編はよかった。しみじみしました。
金曜日は夜9:05から『飛ぶ教室』があります。聞けない方は「聞き逃し配信」もネットで楽しめます。
コメント
コメントを投稿