現代短歌300首から30首を選んでみる

 歌人工藤吉生さんのnoteのページで、現代歌人(2020年時点で65歳以下の人)の代表作300首を読んだ。新しい人たちの短歌がざっと見渡せてなかなか良サイト。ここで独断で30首を選んでみる。

   *なお、ぜひ以下のサイトで全300首も読んでいただきたい。

   *https://note.com/mk7911/n/nd8dcccc0f048

▼伊舎堂仁

海だけのページが卒業アルバムにあってそれからとじていません 『トントングラム』 

▼井上法子

しののめに待ちびとが来るでもことばたらず おいで たりないままでいいから『永遠でないほうの火』

▼梅内美華子

生き物をかなしと言いてこのわれに寄りかかるなよ 君は男だ 『横断歩道(ゼブラ・ゾーン)』  

▼大辻隆弘

紐育空爆之図の壮快よ われらかく長くながく待ちゐき  『デプス』

▼大松達知

かへりみちひとりラーメン食ふことをたのしみとして君とわかれき 『フリカティブ』 

▼大森静佳

生前という涼しき時間の奥にいてあなたの髪を乾かすあそび 『てのひらを燃やす』 

▼岡崎裕美子

体などくれてやるから君の持つ愛と名の付く全てをよこせ『発芽』  

▼岡本真帆

平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ『水上バス浅草行き』

▼荻原裕幸

まだ何もしていないのに時代といふ牙が優しくわれ噛み殺す『青年霊歌』  

▼加藤治郎

ほそき腕闇に沈んでゆっくりと「月光」の譜面を引きあげてくる  『サニー・サイド・アップ』

▼黒瀬珂瀾

一斉に都庁のガラス砕け散れ、つまりその、あれだ、天使の羽根が舞ふイメージで 『空庭』 

▼小島なお

きみとの恋終わりプールに泳ぎおり十メートル地点で悲しみがくる『サリンジャーは死んでしまった』

▼斉藤斎藤

シースルーエレベーターを借り切って心ゆくまで土下座がしたい 『渡辺のわたし』 

▼佐藤真由美

今すぐにキャラメルコーン買ってきて そうじゃなければ妻と別れて 『プライベート』 

▼永井祐

元気でねと本気で言ったらその言葉が届いた感じに笑ってくれた 『日本の中でたのしく暮らす』 

▼中澤系

3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって 『uta 0001.txt』 

▼萩原慎一郎

ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる 『滑走路』 

▼初谷むい

死後を見るようでうれしいおやすみとツイートしてからまだ起きている『花は泡、そこにいたって会いたいよ』

▼早坂類

カーテンのすきまから射す光線を手紙かとおもって拾おうとした 『風の吹く日にベランダにいる』 

▼東直子

廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て『春原さんのリコーダー』

▼平岡直子

三越のライオン見つけられなくて 悲しいだった 悲しいだった 『みじかい髪も長い髪も炎』 

▼穂村弘

サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい 『シンジケート』   

▼枡野浩一

こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう 『てのりくじら』 

▼水原紫苑

殺してもしづかに堪ふる石たちの中へ中へと赤蜻蛉(あかあきつ) ゆけ 『びあんか』 

▼光森裕樹

ドアに鍵強くさしこむこの深さ人ならば死に至るふかさか『鈴を産むひばり』  

▼望月裕二郎

さかみちを全速力でかけおりてうちについたら幕府をひらく 『あそこ』 

▼山崎聡子

遮断機の向こうに立って生きてない人の顔して笑ってみせて『青い舌』

▼山田航

鉄道で自殺するにも改札を通る切符の代金は要る  『さよならバグ・チルドレン』

▼雪舟えま

目がさめるだけでうれしい 人間がつくったものでは空港がすき 『たんぽるぽる』 

▼吉川宏志   

花水木の道があれより長くても短くても愛を告げられなかった『青蟬』  

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