「ほんのささやかなこと」クレア・キーガン(早川書房)

今週の朝日日曜版の書評で見たばかりの本。図書館にもう入っていた。
2024年10月25日初版。クレア・キーガンはアイルランドの女性作家で、この作品でブッカー賞候補にもなっている。この小説はまたニューヨーク・タイムズ「21世紀の100冊」に選出。イギリスのオーウェル政治小説賞を受賞。2025年に映画化も決まっている。
1985年のクリスマスの時期の話、舞台はアイルランド。燃料配達店の店主としっかりものの妻、5人の娘の貧しくも清く美しい小さなストーリー、ディケンズ的なものかと思ったら…アイルランド近現代史に残る傷跡の一つに深くかかわるお話だった。グッドシェパード修道院と修道女たちが営む「洗濯所」にある不正に、どうしても目をつむっていられない男のささやかな抵抗が描かれている。

アイルランドでは、カトリック教会による人権侵害が1990年代まで続いていたという。未婚で寄る辺のない母子を収容所に入れ、「マグダレン洗濯所」でほぼ無償で働かせ、時には母が育てられない幼子を無理やり他人へあっせんするなど非人道的なことが行われてきたのだとか。宗教への遠慮からか、それを公然と批判することはタブーとされていた歴史があった。1996年にこのマグダレン洗濯所は閉鎖されたのだが、そこで虐待を受けた人たちへの補償は十分ではなく、キーガンだけでなく、多くの人がこれを批判するようになり、2013年に政府が正式に謝罪したという。

主人公ファーロングは平凡で貧しく敬虔なクリスチャンだが、それでも修道院に閉じ込められ働かされている母子たちの実態を知るについれ、どうしても黙っていられず行動を起こしてしまう。

150ページほどの中編でストーリー的にはもう少し書かれてもよかったかなと思えるほど。あっという間に読める本で、未知の国アイルランドの寒々とした風景の中、貧しい姿勢の生活とまるで中世かとも思える修道院などが、一種異様な、ああこれって現代の話なのかと思わせて、なかなか「政治的」な小説でもあった。いわゆるエンターテインメントの要素はないが、一息で読んでしまう本。

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