2024年の読書ベスト本はこの6冊 2024/12/28

 

朝日新聞書評諸氏の今年のベストスリーが今日28日に掲載された。19人で一人三冊だから57冊だけど、自分が読んだのはわずか1冊のみとは…これいかに??自分の読書レベルとか読書アンテナとかはこんなに低いの、それとも頓珍漢なの?大崎図書館では、毎週、朝日と読売と河北の書評欄が張り出され、その本と著者の関連本が並べられるので重宝してる。書評ははずれも結構あるがまあ平均以上はあるので、だいぶ頼りにしてるんだけどね。まあ愚痴はさておいて、自分が読んだ数少ない本のうちから、今年のベストスリーを並べてみた。スリーじゃなかったけど。

1.岩波新書の梯久美子「戦争ミュージアム」がよかった

2024年7月初版。ノンフィクションライターの梯久美子さんが、日本にある戦争関係の博物館や記念館14か所を訪れた記録。よく知られたもの以外でも、大久野島毒ガス資料館(広島)、周南市回天記念館(山口県)、対馬丸記念館(沖縄那覇)、象山地下壕(松代)等々、こんなにあったのかと驚く。戦争はもう歴史になってしまったが、庶民にとっては死と別れと憎しみと愛の記憶でもあるのだなあと思う。不謹慎ながら、ちょっぴり旅情も誘う。

梯さんは、「この父ありて 娘たちの歳月」(文藝春秋)もよい。9人の女性作家と父親の物語。最初の二編、渡辺和子と斎藤史の章は、どちらも父親が二・二六事件の関係者で実に生々しく、そして昭和天皇とその取り巻きがいかに残酷であったかを語るもので圧巻。

2 金井真紀「テヘランのすてきな女」が鷲田清一の「折々のことば」に登場

2024年6月初版。エッセイストでイラストレーターの金井さんの、謎の国イランへの飛び込みルポ。知られざる女性アスリートたちとのインタビューも楽しい。LGBTQの人たちとか隣国からの難民とか、キリスト教徒の女性などの少数者へのめくばりも十分。女性専用の公衆浴場の潜入ルポは、なかなか詳しくて笑える。楽しい読書で、あのイランでも人間はかわらないなあと、ちょっと明るくなれる。この12月、朝日新聞一面の鷲田清一さんの「折々のことば」にこの本が二日連続でとりあげられたのは慶賀の至り。

3 ちょっと地味な津村記久子と今村夏子

 津村さんは今年は「水車小屋のネネ」がよかった。本屋大賞は二位で、谷崎賞を受賞した小説。でも「サキの忘れ物」もなかなか。前者は長編、後者は短編集で、特にタイトルの「サキの忘れ物」が少しもドラマチックでなく淡々と進むのだけど、心正しく、そして暖かい。

今村夏子はとにかくユニークな作家でどれを読んでも予想の斜め上をいく展開と不穏な終わり方に、うなってしまう。寡作の人で新作が二年前の「とんこつQ&A」。「とんこつ」は新たにスラップスティック風味とコメディ風味が加わって、「紫のスカートの女」以降、今村の新しい一面がでてきた感じ。危ない人を書かせたら、もしかしたら第一人者。

4 相変わらずだが、内田樹「図書館には人がいないほうがいい」

内田樹さんの新刊。2024年6月初版。「静かで、人がいなくて、何の役に立つのかもわからない本が書棚いっぱいにならんでいて、それがずっと続いている。静寂の中自分の靴音だけが聞こえるような空間で、初めて人は本に『出会う』」というお話。「図書館は、決して効率を求めたり、費用対効果を求めたり、賑わいを求めたりしてはいけない。読まれる本だけを置く場所であってはならない。誰一人、100年も読まれない本があっても、その本はそこにあるべきなのである。」内田らしいレトリック。

この本には、内田の本に対する思いがつまっていて、なんだか自分も少し切なくなるほど。内田の本はたくさんありすぎてちょっと飽きるけど、折々に読むと、もやもやした気持ちが晴れる。

5 「鈍器本」という言葉を初めて知った

昨年の本だけど、小川哲の「地図と拳」を意を決して読んだ。直木賞受賞作で、選考委員の林真理子が「鈍器本」と称した625ページという厚さ。そしてやはりその目方にふさわしい超弩級の読みごたえのエンターテインメント。日中戦争時の満州が舞台。激動の時代に満州に理想の都市を作り上げようとする人たちとそれを阻止しようとする中国八路軍、関東軍と満鉄の思惑が複雑に絡み合い、謀略と殺戮が渦巻くドラマ。ちょっと群像劇風で名前を覚えるのが大変。

 ついでに島田雅彦の「パンとサーカス」も。こっちは557ページで、2022年3月出版の本。日本政治の近未来を扱うスパイものの冒険活劇で、長いけどスピード感があって、どんでん返しも結構ある。「ミッション・インポッシブル」風というか、あの感じで読める。現代日本の政治状況を扱っている近未来もの。日米安保協定の中で、日本は否応なくアメリカに隷従的態度をとらざるを得ない状況が、詳述される。これも寝転んで読むには重かったが、凶器になるにはちょっと足りないくらい。

6「ほんのささやかなこと」クレア・キーガンはブッカー賞をとれるか

2024年10月25日初版。クレア・キーガンはアイルランドの女性作家で、この作品でブッカー賞候補にもなっている。この小説はまたニューヨーク・タイムズ「21世紀の100冊」に選出。2025年に映画化も決まっている、など話題多し。でもエンタメではないです。

1985年のクリスマスの時期のアイルランド。燃料配達店の店主と妻、5人の娘の貧しくも清く美しい小さなストーリー、ディケンズ的なものかと思ったら…アイルランド近現代史に残る傷跡の一つに深くかかわるお話だった。グッドシェパード修道院と修道女たちが営む「洗濯所」にある不正に、どうしても目をつむっていられない男のささやかな抵抗が描かれている。いい話。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一部改変してヤマレコにも掲載しています。

コメント