「サガレン」梯久美子(角川書店)

ノンフィクションライター梯久美子さんのサハリン紀行記。「戦争ミュージアム」「この父ありて」の梯さんが、サハリン急行に乗って旅をする第一部は、鉄道マニアでなくても、なかなか風情があって楽しい。なにより樺太=サハリンは日本人にとって因縁の島でもあるので。
長い間、日本とロシアの間で、樺太の帰属問題は懸案事項であった。樺太と千島列島で日ロが棲み分ける形になった後も、日本人は樺太によくでかけていったようだ。林芙美子もその一人で、梯の林の紀行文を引用し、林が旅したあとをたどってみる。日本には国境線がない。だから樺太の北緯50度線は、この目でみることができる貴重な「国境線」で、林もそれを見に訪れたという。そしてチェーホフ。世界的な劇作家チェーホフも、ジャーナリストのようにサハリンを訪れて主に流刑者のことを描いた。この「サハリン島」という本は村上春樹の1Q84にも引用されて有名になったとのこと。(自分は記憶がない…)

サモワールで入れた紅茶売り、ツンドラ饅頭とか、廃線探しとか、好奇心旺盛な梯の行動は単なる鉄道マニアとか僻地旅愛好家とは一味違って、日ロの歴史や人的交流の記録も含めて硬軟取り合わせて、なかなか楽しい。

第二部は、一転して宮沢賢治の話になる。賢治は妹としを亡くした悲しみからなかなか立ち直れず、気分転換だろうか北帰行を始める。花巻から北海道に渡り、そこから宗谷岬、連絡船に乗り換えてサハリンに降り立つ。賢治はサハリンをサガレンと書く。タイトルのサガレンはここからとったもの。
梯は文学者を扱うことの多いライターなので、賢治の話もどんどん深まっていく。「青森挽歌」「宗谷挽歌」「オホーツク挽歌」などから賢治の詩を引用しつつ、サハリン鉄道や白鳥湖などから「銀河鉄道の夜」のメインイメージを着想したのでは、などという指摘もあった。ただし、このあたり、賢治の作品と年表にかなり踏み込んだ話になっていって、賢治ファンでなければ、あまり面白味は少ないかもしれない。

梯のノンフィクション好きには、第一部がおすすめ。第二部は少し評価がわかれるかも。

 

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