初めて読む宇田さんの本。「那覇の市場で古本屋」の続編らしい。タイトル通り、沖縄国際通りの古い古い町並みの中で、移住してきた宇田さんが店舗を借りて古本屋を始める。その後10年が過ぎ、コロナ禍でひっそりとし、人通りの途絶えた市場のようす、アーケード街の建て替えなど、やや苦しい時期を静かに地道にひっそりと古本屋を続けてきた、その間の日記のような、ごくさりげない読書案内のような、沖縄紹介のような、独特なエッセイで、なかなか魅力あるスタイルだった。
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さすがプロの古本屋さん、短いエッセイ集なのだが、自分の日常とかかわりのある本がさりげなく紹介されていて、おや、これ面白そうというものもあったりする。
ダニエル・デフォ・「ロンドン・ペストの恐怖」はコロナ禍との関りで。内澤旬子「ストーカーとの七百日戦争」鹿島茂「パリのパサージュ」ウィリアム・トレバー「密会」。金井美恵子の「楽しい暮らしの断片」の桃色のブックデザインが気になって気になってついレジに運んでしまう。読む楽しみに加えて部屋に置いて眺める楽しみ、そんな本も稀にあるね。手元においておきたいやつ…
瀬尾夏美「二重のまち 交代地のうた」と村岡俊也「新橋パラダイス」は昔からの町並みの話。津村記久子の「つまらない住宅地のすべての家」は住宅地の暗がりの話。伊藤亜紗「目の見えない人は世界をどうみているか」は、自分も何年か前に読んだ本。
食べ物のお話も。鰹節とのりを重ねた鰹節弁当は、阿川佐和子と阿川弘之の話で、そこから庄野潤三と安岡章太郎のゆで卵の話になったり。そして沖縄出身の詩人、山之口獏「桃の花が咲いていた」を紹介し、山之口さんはエンデのモモみたいな人だと思わずお客さんに言ったりする。 本の紹介ではなく、本とともに生きてきた人の思いでの話でもあった。いい本だったけど、宇田さん、これがもしかしたら最後の本になるんじゃないかとふと思った。この人は作家的じゃないというか、話を「盛らない」タイプとみた。まじめな本屋さんっぽい感じ。
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