「僕が殺した人と僕を殺した人」東山彰良(文藝春秋)

「流」に続き、東山彰良二冊目。これもすごい本だった。
2015年11月、デトロイトで7人の少年を連続して殺害した犯人が検挙された。サックマンと呼ばれるこの男のことを「わたし」はよく知っていた。30年前のことだ。
このようにストーリーが始まっていく。

時代は1984年に戻る。場所は台湾。台北の繁華街の路地裏を舞台にした3人の少年たちがいて、普通と不良のはざま位のところと言えばいいのか、まあ「ガキ」盛りという雰囲気を、これは「流」でも圧倒的だったあの疾走するような文体で描いていく。喧嘩と路上のブレークダンスとに夢中になりながら、3人は熱い友情をはぐくんでいる。3人の境遇はどれも似たり寄ったりで、特に親子の関係でぎくしゃくしたものがある。
何事もなく過ぎることもできたのだが、何か歯車が狂ってしまうこともある。それが3人をある犯罪に引き寄せてしまい、やがてその犯罪計画が予期せぬ破局を招いてしまう。

唐突に3人の関係が終わる。そしてそれは少年期の終わりであった。
3人の中のだれかが巨大なトラウマをかかえてシリアルキラーになってしまうのだが…ミステリーとして犯人が誰かを追う展開ではなく、はるかにこの若い命の一瞬一瞬の輝きを描いた熱血青春小説というふうなものを作者は書きたかったのだろう。

「流」と同じように、台湾の町の路地裏の風景が徹底して描かれ、その猥雑と暴力と家族への深い愛と、人間の愚かしさと、若い命の輝きと、様々なものが奔流のようになって小説の中を流れている。この「力強さ」「逞しさ」「命の輝き」が、この小説の神髄であり、ミステリーの形はあくまでも枠組みの一つにすぎない。文学の好みによって若干好き嫌いは出るだろうが、自分としては高く評価できる作品。

2017年読売文学賞を受賞。

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