「ガザからの報告」土井敏邦(岩波ブックレット)

ジャーナリストの土井が、ガザに住むパレスチナ人の友人Mより届くメールや連絡をもとに、ガザの現状を一パレスチナ人の視点から報告するもの。

イスラエルとハマスの戦いの中で、パレスチナ難民たちは、なすすべもなく、命を失い、家族を失い、土地と家を破壊され流浪するしかない状況に追い込まれている。戦火によるケガ、疫病、飢餓、貧困、誰も助けてくれない、どこにも希望がない人々の姿が、Mの家族や知人の話から浮かび上がる。

パレスチナの人々は、イスラエルを恐れているし、ハマスを憎んでいる。決してパレスチナ難民がイスラエルと戦って、あるいはイスラエルを襲って、その代償として戦禍にあっているわけではない。彼らはひたすら被害者であり、彼らを助けてくれるのは国連とNGOのみである。その支援でさえもハマスが横取りをし、難民には少しもいきわたらない状況。このことも、世界はもっと報道されるべき。

パレスチナの人々が今一番恐れているのは、イスラエル軍でもなくハマスでもなく、自分たちの仲間が、あまりの貧困と飢餓の中で、人間性を失い人としての尊厳を失い、希望をうしなって、自殺と犯罪の中に堕ちていく、そのことであるとMは訴える。

(すべて難民の目で見たガザの現実なので、イスラエルの姿は傍若無人な「戦車」の形でしか現れない。ネタニヤフが国内外の強い批判や反戦運動にあっても、決して攻撃をやめないのはなぜなのか、言われているように、やめると明るみに出てくる長年の汚職や不正の問題があるのか、そのことは別のイスラエル側のレポが必要だろう。)

経済学者の斎藤幸平は「自分はオリンピックを見ない。イスラエルの虐殺がやまないなかで、どこにも平和の祭典は成立しないから」という意味のことを言った。
そして、イスラエルだけでなく、ハマスもまた、別の形でパレスチナ難民を虐待していることを知っておかねばならない。ガザでいま起きていることから目を背けてはならない。見ないふりをしてはならない。忘れてはならない、そう思った次第。

短い本なので、どこかで見かけたら読んでみてほしい。

 

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