今村夏子は結構好きな作家で、一昨年「ムラサキのスカートの女」が芥川賞をとって納得。デビュー作の「こちらあみ子」以来一貫してかなり個性的な作品を、ぽつぽつと発表している。
「父と私の桜尾通り商店街」は7つの短編小説をまとめたもの。どの作品をとっても、共通しているのは、普通の平凡な登場人物が、普通の出来事の中で、すこしずつ歯車がずれ始め、いつのまにか狂気じみた世界の入り口にたっているという感覚を覚えるところ。善良そうに見える人が、どれもその奥底に何か違和感を覚えさせるものを抱えていて、それがふと発現してくるという、ちょっとした怖さ。
ホラー小説ではないので、怖さは追及されない。たいてい主人公もそういう怖さを抱え持っているし、またそういうもにに慣れているところもあるから。
ストーリーは、ほぼ破綻していく。いわゆる大団円とかハッピイエンドとはほどとおく、かといって悲劇として完結するわけでもなく、そのままバニッシングポイントに向かっていくような。だけど、面白い。一気読みさせる展開である。素晴らしい才能というより、素晴らしい異才でしょうか。
「白いセーター」「ルルちゃん」「ひょうたんの精」などどんどん怖くなる話。「せとのママの誕生日」は場末のスナックの従業員たちが老いてしまったママと薄汚れたかつての職場で、寝ているママを囲んで思い出に耽るという話が、なぜかどんどん不穏で怪しくなっていくという不気味。「モグラハウスの扉」の結末といったら一体なぜと…まあ、どれも面白いです。
星は五つ星で★★★★くらいの面白さ。
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