「木挽町のあだ討ち」永井紗耶子(新潮社)

一気呵成に読んでしまった。先へ先へと読み進めたくなる傑作本であった。
昨年前期の直木賞作品でなおかつ山本周五郎賞もとった手練れの一冊である。

江戸の芝居小屋が並び立つ木挽町で仇討ち事件があったのは二年前。その仔細を知りたいと仇討ちをなしとげた菊次郎の縁者だという同じくらいの若侍がやってくる。事件を目撃した五人の芝居小屋の関係者に次々とその事件のこと、そしてその当人がどのような生き方をしてここで働いているのかをじっくり話を聞いてくるようにと菊次郎に言われたのだとか。

小屋の呼び込みの一八、戯作者の金治、殺陣を指導する与三郎、衣裳を担当するほたる、小道具を手作りする久蔵など、個性豊かな関係者たちが、それぞれの立場から見た菊次郎の人となり、そして事件の様相を語る。一つの事件を繰り返し複層的に描き出す中で、次第に浮かび上がってくるあた討ちの真実。芝居小屋を取り巻く時代劇ミステリーで人情ものの傑作という印象です。

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