「品格語辞典」関根健一監修(大修館)

「品格語辞典 」の書評が新聞に載っていて、図書館で借りてみた。この辞書、先行する「無礼語辞典」とセットになっているようで、辞書としては「企画もの」的存在。国語辞典や英和、和英、英英辞典、古語辞典などは普通の学習者には見慣れたものだろうが、こうした変わり種を手に取る方はわりと少ない気がする。
普通の単語に対して、それをやや上品な言い方で言うとどうなるか、丁寧な言い方では、婉曲を込めていうときにはどうなるか、など、まあ実際利用する場面は少ないけれど、手元にあれば文章を書くときにちょっと参考にするかな、くらいの内容。ただし、同じ意味の語群をマトリックス図に並べて、一目でわかるようにしてあるところが特徴かな。
俗語口語の「うざい」についてはこんなマトリックス

「めっちゃ」「ぶっちゃけ」「スルーする」「むかつく」などの新語、俗語も品格のある表現で言い換えてあったりするが、新語を全部掲載しているわけでもなく、それを売りにしているわけでもない。普通の単語がほとんど。1800円、辞書にしては高くはない。

このような辞書はいっぱいあって、ネットで検索すると最初にひっかかったのが、林雄二さんのDaily PortalZ というサイト https://dailyportalz.jp/kiji/weird-encyclopedia

18冊の辞書を結構詳しく紹介されている。これだけ揃えるのはマニアの方ですね。

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自分が持っていた変わり種の辞書は 郡司 利男先生の「英語逆引辞典」で、意味を調べるというよりも、語尾(接尾辞)が同じものを集めて、語源を知ったり、単語覚えるヒントにできたりと、結構面白い辞書だった。1968年の出版で、多分今でも手に入る。ただし、もっと優れた逆引き辞典もでてきてはいるようだ。例えば、「プログレッシブ英語逆引き辞典編/國廣哲彌  編/堀内克明 」など

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三浦しをんの「舟を編む」は辞書編集者の話で、松田龍平と宮崎あおいで映画化もされた。地味なストーリーなんだがかなり人気があったと思う。松田龍平は三浦しをんの映画、ほかにも出ていたような。昔のコミック「めぞん一刻」を彷彿とさせるところもあって、現代の話だけどちょっとノスタルジックな雰囲気があった。
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辞書にとりつかれた人だったら、中公新書の「辞書屋列伝」が面白い。以前ヤマレコの日記に書いた書評を再掲すると:
<辞書屋>列伝
オクスフォード英語辞典(OED)は語数41万、引用例182万例、全20巻。世界最大の辞書である。見たことがあるが、触ったことはない。「そして僕はOEDを読んだ」の著者アモン・シェイは最初から最後まで通読した。その本は、ついに憧れのOEDを読み始めた著者がその経過を綴った生活エッセイと、OEDから拾った「可愛いらしい単語」に彼自身がつけたコメントから構成されているという。OEDを読みたいとは決して思わないが、シェイのこの本は何とか手に入れたいものだ。

 さて、辞書OEDの話。作り始めたのは19世紀末。完成は1927年、3代にわたる責任編集者がいた。3代目ジェイムズ・マレーがOED育ての親と言われる。この時代、辞書の語彙収集には膨大な数のボランティア(readerと呼ばれる)がおり、それぞれが読んだものから単語の用例を書いて送ってよこすシステム。膨大な手書きデータベース(コーパス)ができあがる。もちろんすべて使えるわけでなく、この整理だけで相当な時間がかかる。リーダーの中には後の有名人も混じっていた。トールキン、バージニア・ウルフの父、カール・マルクスの娘などもいた。中でも異彩を放っていたのが在英のアメリカ人マイナー博士である。彼の送ってくる用例は質量ともに群を抜いていた。やがてマレーはマイナー博士を大いに信頼し、自分からどのような例を送ってほしいかを伝え、博士はそれにきちんと応えそれ以上のものを送ってくれたという。
 20年これが続いた。そしてCの項目を収録した第3巻が発行された1896年、マレーはマイナー博士に会いに行く。馬車に乗ってたどり着いた大邸宅で面会を求めた時、相手は答えた、「私はこのブロードムア犯罪者精神病院の所長です。マイナー博士はアメリカ国籍で、もっとも長くここに収容されている囚人の一人です。彼は殺人を犯しました。重症の精神病患者なのです。」

 まるでレクター博士!

 この本、田澤耕「<辞書屋>列伝」(中公新書)は、魅力的なOEDのお話から始まり、シオニズムを支えた現代ヘブライ語の創始者ベン・イフェダーと彼の「ヘブライ語辞典」、英語辞典の構成を援用しながら、初めて国語辞典「言海」を書いた大槻文彦、ヘボン式ローマ字を作ったヘボンと「和英語林集成」、ガルシア・マルケスが「この婦人は、一言でいうならば、ほとんど未曾有といっていいほどの功績を残した。」と絶賛した「スペイン語用法辞典」のマリア・モリネールなどをそれぞれ30~40ページの評伝の形で紹介しているものである。
 辞書が好きな人は勿論楽しめる。それ以上に、19世紀から20世紀初頭にかけて、奇しくも同じような情熱を持った人たちが、同じような喜びと苦しみを味わいつつ、それぞれの国で大きな仕事を成し遂げた共時的ドラマに驚かれると思う。ごくマイナーなジャンルであるが、私にとって今年のベストの新書の一冊になると思う。

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