スポーツ3.0 平尾剛(みしま社)


平尾剛さんは、神戸製鋼ラグビー部の名選手。ケガで引退されたのち、スポーツ教育学の研究者となり現在は大学教授をつとめられている。発言するスポーツマンとして、その言は信頼に値する数少ないスポーツマンの一人。

本書では、スポーツウオッシングのことまずとりあげている。スポーツウオッシングとは、権力者がスポーツイベントの熱狂を政治的に利用して、自らの権威を高めたり、不都合を隠蔽したりすることを云う。オリンピックとはまさに「21世紀のパンとサーカス」(大衆の欲望を刺激して現実から目をそらさせるもの)と化している。

オリンピックのような巨額な金が大した精査もされずに動くイベントは、金の亡者たちにとってまことに都合のよいイベント。そこに群がってくる醜悪な人間たちが、コロナ下であっても、国民の多くが反対していても、すべてを無視してこれを遂行していった。あまつさえ、疲労困憊の医療従事者を、ここにボランティアで強制参加させるような仕組みを作った。トップの協会の人間たちは、数千万の給料をもらいながら、医療ボランティアと大会ボランティアを「いきがい搾取」していったのである。すべては自分たちのカネのために。

平尾は今現在で起こっていた事象の本質を正確に伝えながら、「見るスポーツ」の危うさについて我々に教えてくれる。

よい流れもあるという。例として挙げているのは、全日本柔道連盟が小学生の学年別柔道大会を廃止したことである。いわゆる勝利至上主義は末端の指導者そして親にまで広がっており、子どもたちがスポーツをする本当の喜びを奪っていることを指摘している。

酷暑下でのスポーツ、プロスポーツでのファンやサポーターの異様な過熱、野球での野次の激化など、するスポーツも見るスポーツも、「楽しむ」余地が少し失われてきているところ、少し立ち止まって、もう一度スポーツの楽しさを考えてみようという平尾の提案、そのとおりとうなずくところが多かった。
読みやすい本で、日本のスポーツ全般に目配りができている本である。
 

コメント