「天井のない監獄 ガザの声を聴け!」 清田明宏 (集英社新書)

 筆者の清田明宏さんは医師で、パレスチナ難民を支援するUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の保健局長をされている。主にガザで、現地スタッフとともに医療だけでなく、難民の経済支援、自立支援などにも力を貸している方である。この本は2019年の本で、今のパレスチナの様子を描いたものではないが、直近までのパレスチナとガザの歴史と現状が、特にガザに住む普通の人たちの暮らしがよくわかる本である。

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<パレスチナ問題の簡単なまとめ>

パレスチナ難民は550万人いるとされる。イスラエルの中の二つの地域、ガザとヨルダン川西岸地区に別れて住んでいる。ヨルダン川西岸地区には325万人が住み、PLO系のファタファが政権をとっており、こちらが国際的にパレスチナ暫定政府とされるところ。ガザは前回の総選挙で過激派のハマスが勝ち政権をとった。人口は222万とされる。

今回はガザのハマスがイスラエルを急襲し、数百人の人質をとり、1000人以上が殺されたとされる。それに対し、イスラエルがガザを空爆しすでに9000人以上の犠牲者がでており、これまでは安全とされた国連関係の病院や学校にも多大な被害者がでているのが現況である。

すでに何度もあったパレスチナとイスラエルの紛争だが、これまでは死者はパレスチナでも数百から千人ほど、イスラエルでは数十人という数字だったのだが、今回の紛争は一桁違う死者数となっている。

ハマスが先に襲ったので、イスラエルは正当防衛だというのはアメリカなどが一貫して言い続けているが、もちろん、そんな単純なことではない。イスラエルはずっとガザを攻撃し続けており、ガザだけでなくヨルダン川西岸地区でもイスラエルとの衝突は日常茶飯事にある。二つの国の歴史を見れば、なかなか解決が難しいのだが、イスラエルの融和派のラビン首相が暗殺され、右翼の過激なネタニヤフが首相になって以来、一時あった融和ムードはもうなくなっており、今回を衝突を機にさらに激しい紛争が続くことは想像に難くない。

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この本のサブタイトルは「天井のない監獄」で、ガザが陸上、海上、空と全てイスラエルに封鎖され、水も食料も生活物資も全て、検問を経てしか手に入らない状況で、その供給がいつとまるかもイスラエル次第という状況の中、貧困と失業によって人々は、特に若者は絶望の中にいる。自殺率も高い。こうした状況を筆者は「監獄」に例えている。

国連が入ることで、ある程度の「正義」は維持されているが、今は国連関係者も国外退去している状況で、いったい何が起きているのかもわからない。

清田さんたちは、医療だけでなく、国連が支援して学校を作り、また極度の失業率に悩まされ将来の希望もなく、いつまでも続く貧困の中で、絶望する若者たちの就業支援も行うなど、通り一遍のボランティアではなく、国作りにも手を貸してきた。

学生たちを日本にも招待し、釜石などで花火大会などもしながら交流を支援したりしている。

若者たちは、いちように「人間としての尊厳がほしい」という。清田さんがパレスチナの女性ドーアさんから、日本のみなさんに伝えてほしいと託されたメッセージは次の通り。

「私たちパレスチナ人は、平和を愛する民族です。それを知ってください。わたしたちはただ尊厳のある暮らしをしたいだけです。殺戮はいりません。そして、子どもたちが平和な社会で安定した生活ができるように、それが、わたしたちの願いです。」



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