5/21朝日歌壇俳壇での、小島なお「短歌時評」で、今年度の迢空賞が水原紫苑の歌集「快楽」に決まったと知る。水原紫苑の四つの短歌が引用されている。
飛ぶ鳥の足は戦争なるゆゑに銀河の果てまで若者は逃げよ
國葬はくにを葬る秋ならばかへらざるべし血の蜻蛉島(あきつしま)
抒情的で古典的で端正な作風の水原紫苑の歌を知る人は、ああこの人もこのような歌を読むのかと少し驚くだろう。でも「直接」に世情を詠むのではなく、幾重にも思索とイメージの作り出す力を通り抜けて繰り出された言葉だなあと思う。
水原の傑作をいくつか:
美しき脚折るときに哲学は流れいでたり劫初馬より
殺してもしづかに堪ふる石たちの中へ中へと赤蜻蛉(あかあきつ) ゆけ
菜の花の黄溢れたりゆふぐれの素焼の壺に処女のからだに
胸びれのはつか重たき秋の日や橋の上にて逢はな おとうと
宥ゆるされてわれは産みたし 硝子・貝・時計のやうに響きあふ子ら
炎天をブッダ歩めるうしろより踊り来たれり印度の果実
書き出してみると、本当にきれいな歌が多いのだけど、どうなんだろう、馬でも蜻蛉でも魚でも、描かれる具象は、なんというかあまり生き生きしているとはいえず、イメージとして書かれているような印象。
ひとことで言えば、「美しい」のだが、力強さに欠ける。この人の短歌は好きだったんですが…
*釈迢空(しゃくちょうくう)は、国文学者の折口信夫のペンネーム。
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