追悼 大江健三郎 ② 「人生の親戚」を読む

大江の中で、特に好きな小説。読んだのは多分何十年も前だが、今でもその読後感が強く残っている。「哀しみ」について描かれている本。

倉田まり恵という女性が主人公で、作者大江を思わせるKさんがその人生を語るという形式。まり恵には二人の息子がいた。障害のある息子をひきとり、健常者の弟は夫に預けて離婚。大学教員であったまり恵は、息子を中心に生きていくことを決意する。しかしその二人の息子たちが唐突に亡くなってしまう。
絶望の日々のあと、「イエスの箱舟」を思わせる宗教団体との関わりでアメリカに渡ったまり恵だったが、終の場所として選んだのが、メキシコの被抑圧者たちが暮らす農場だった。「哀しみ」「献身」「悲劇」「安寧」そして「救済」。人の世の悲しみが、その深淵がここに描かれている。

大江作品から一冊をと言われたら、この作品が選ばれることは少ないかもしれないが、もっとも深い感銘を覚えた本といったら、大江に限らず、生涯読んだ本の中で、自分はこの一冊を選ぶだろう。大江が亡くなって、再読の機会を得られたことを、逆に感謝したい気持ちもある。

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