高橋源一郎の本を何冊か。
「居場所がないのがつらいです」毎日新聞出版 2022/6/22 出版
毎日新聞の人生相談、2015年~2022年分の抜粋。高橋源一郎のお答えは、真摯で過激で、なかなかグッとくる。
例えば、こんな60代男性の相談:
30年以上生活を共にした妻が家をでていった。「もうこれ以上がまんできない」と言って。何度謝っても「信用できない」と言われた。関係を修復できないか。
源一郎さんはまずこんな風に答える。
これはある意味では平凡なできごと。家庭を顧みなかった父親が家族から愛想をつかされる。いままで自分のしてきたひどいことに気づかなかった。そしていまようやく気付いた。それは、「よかった」ことだ。
ではどうするか。
まずは家事を全部自分でる。一人で炊事し、掃除し、洗濯し、ごみを出し。妻が一人でやってきたことを全部。生きていくことがどんな大変かわかる。家族と暮らすことに意味もわかる。孤独がどんなものかもわかる。その時初めて、妻や娘に謝罪することができる。あなたにはまだ謝る権利もない。
という辛辣なもの。概ね、男性の相談には厳しいかもw
子どもが盗みをしたことで、どう対応するか悩む親に、源一郎は自分の昔話を言う。
みちばたに落ちていた1000円札をねこばばした高橋少年。ついに見つかって両親に呼ばれた。少年はなんとか言い逃れをしようとすると、両親はこういった。
「わかった。こんど拾ったら、ちゃんといいなさい。」
そして現在の高橋はこんな風に続ける。
両親は私を信じたのではありません。嘘であることも知っていました。けれども、彼らは私を追い込みませんでした。彼らは信じるという決断をしたのです。
誰かを信じるのは、その人が信じられるからではありません。その人を信じたいから、あるいは、信じる決断をしたからだとわたしは思っています。そして、その決断が、いつかその人に通じると信じたいからです。見返りがなくても、裏切られても。「信じる」ことは「愛する」ことと同じなんですよ。
子を持つ親なら、少しは心当たりがあるような出来事。そのとき親であった自分はどう対応したのかを、思い出させる。そして、少し泣ける。
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「これは、アレだな」毎日新聞出版 2022/2/15
サンデー毎日のコラムをまとめたもの。5ページで一話完結。
概ね読書評で、一冊から次の一冊へと、「これはアレと同じテーマ、同じ批評、同じ分析」というふうに、話をつなげていく形。サブカルチャーにも造詣深い源一郎さんなので、コミックや、音楽やTV番組、映画などもバンバンでてくる。話の展開がとても過激。
マーガレット・アウトウッドのディストピア小説「侍女の部屋」は、女が「産む機械」になった社会の話。それがバージニア・ウルフの「自分ひとりの部屋」につながり、徳富蘇峰の「不如帰」へ。「侍女の部屋」は簡にして要を得る紹介で、ぜひ読みたくなった。オーウェルの「1984」のタイプのSFです。
よしながふみの「大奥」を紹介しつつ
「感染症の流行で社会が激変し、それに人々がどう対応していったかを描いたドラマ。いま思えば時代を先取りしていたとしか思えませんね。新型コロナが大流行し、カミュの「ペスト」が世界中で読まれたが、われわれには「大奥」があったのだ」
とか。
カズオ・イシグロの「クララとお日さま」で、病弱の女の子の友達になったクララは、人間のような「祈り」と「魂のことば」を発するようになる。AIの未来についての、科学の側からではない一つの洞察なのだが、源一郎は、これに続けて、「フランケンシュタイン」、「エバンゲリオン」「鉄腕アトム」へと話を進めていく。
読書論として、ブックガイドとして、マンガや映画やTV番組視聴の一つの視点として、刺激的で、なにより視野が広がる。これはアレだなとつぶやく源一郎さんの顔が浮かぶような本。
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ヘミングウェイ「老人と海」
何十年ぶりかで再読した。前に紹介した映画「メタモルフォーゼの縁側」について、源一郎さんが「飛ぶ教室」で、この映画(コミック)と「老人と海」とあわせて、「これはアレだな」的なことをしゃべった、と聞いたから。肝心のラジオ番組は効いていないので、ラジコで確認しようとしても、みつからなかった。ただ、伊藤比呂美との会話部分で、ちらっとその話題がでてた。
ということで、とりあえず、再読。50年ぶりくらいか。印象は変わらず。かっこいい爺さんが一人でカジキと格闘し、釣り上げたのちはサメと格闘する話である。見事にマッチョで切れのある文章はさすが、ノーベル賞作家という印象。
で、メタモルフォーゼの縁側と似ているかというと、少しも似てない。老人と若い男の子が主な登場人物であるという点で、マンガの老女と高校生アルバイトの書店員の女性との関係と近いと言えば近いが。結局、ラジオで源一郎はなんていったんだろうか。
誰かご存じの方があれば、教えていただきたい。
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朝起きたら、大江健三郎の訃報。
自分を文学の世界に連れてきてくれた、偉大な作家であった。今日から少し大江の小説を再読しようと思う。
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