朝日歌壇の常連家族の歌集がでた… 歌集「じゃんけんできめる」 山添聖子 葵 聡介 (小学館)2022/9/7初版)

 歌集「じゃんけんできめる」は、朝日歌壇でよく短歌が掲載される山添家の親子の初めての歌集。お母さんと12歳の葵ちゃん、9歳の聡介くんがこの10年書き続けてきた歌を一冊の本にまとめたもの。
朝日歌壇を読まれる方なら、山添さんの名前は頻繁に目にするはず。娘さんと息子さんのほほえましい短歌は、幼いながらなかなか思い切った表現や、意外な視点があって、選ばれた作品は楽しいものが多い。お母さんの歌も、生活短歌とは一味違った、人間味と愛情と深い洞察に満ちた切り取りが見事で、もうまぎれもなく一人の歌人の才能である。
こどもたちの成長の物語があり、それを見守る母の視線があり、こどもが親を見上げるまなざしがあり、年を経るとともに深まっていく親と子の思いの絡まりが、進化する表現力で目の前に広がっている。これは「美しい家族の物語」である。


幾つか楽しい作品を紹介すると:
葵 7歳
ふゆもののママのパジャマはいいにおいあまくてとうみんしたくなります
9歳
先生がりんごを切ってくれましたおいしい分数はじまりました
11歳
サンタさん気をつけてきて弟がいっぱい罠をしかけています

弟が父に短歌を教えてた「ならったかん字はぜんぶつかいや」

聡介7歳
ふうせんが九つとんでいきましたひきざんはいつもちょっとかなしい
8歳
じゃんけんできめるのぼくはきらいですだいたいお姉ちゃんがかつから

母 聖子
海を抱くとはこういうことかしら 小さないのち宿したおなか
羽の生えてきそうな肩甲骨をして少年はプールサイドに並ぶ
頭からタオルケットをかぶる子の少女になりゆく不機嫌な繭
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朝日紙上で読むのとはかなり違う印象。上にも書いたが、歌集というよりは、「家族の物語」そのもので、読みながら子供たちの成長を追っていくという楽しみがある。母親の愛情と深い観察と洞察には、畏敬の念すら覚える。読み始めて、ついに最後まで一気読みしてしまった。なかなかいい本で、お勧めの一冊なのだが、いかんせん全て短歌なので、読みなれた人向きかもしれない。

お母さんの聖子さんはこれからも短歌を作り続けるだろうが、子どもたちはどうかな。これからも楽しみな家族である。

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