平野敬一郎「ある男」文春文庫   2022/10/3

平野敬一郎の「ある男」が映画になると聞いて、さっそく読んでみた。2018年初版で、19年に読売文学賞をとり、すでに20万冊売れたとか。うーん、出遅れたか。

小説はミステリー風味で、ある弁護士が、亡くなった夫の過去を調べてほしいという依頼を受ける。かつて離婚調停をした女性からで、再婚した相手の男が4年後に事故で死亡。男の実家に連絡をとってみたら、兄がやってきて死んだ男の写真を見て「これは弟じゃない」と言われ、途方に暮れているとのこと。いったいこの男は誰なのか、どうやって入れ替わったのか。謎解き的な面白さとは別に、弁護士とその妻との愛憎の問題も重要なテーマになっていて、なかなか重い話であった。さらに、弁護士の出自の問題。在日三世ということを意識せずに過ごしてきた自分が、事件を探るため刑務所に収監されていたある詐欺師と面会するのだが、そこで在日という過去について改めて考える機会を得る。小説のテーマと並行して、この葛藤も繰り返されるので、さらに重い印象が。これ筋には関係ないと思うけど。

一気に読ませるが、上のポスターにある「必ず涙する」かどうか、そこまででもないかなあと思った次第。
人間の心理、とくに男女の関係にかかわる気持ちの変化について、とことん書き切っている感じで、おなか一杯感がある。また、「このあとこの人はどうなるのか」とか「あの二人の関係はどうなるのか」などと、書かれずに残された問題が幾つかあるんだけど、もちろん平野の計算のうちなんでしょう。評価は5点満点で★★★というところです。
自分の小説の好みは、こういうリアリズム系じゃなくて、謎とか不思議とか不気味とかが描かれる「重ファンタジー系」なので、平野のこの作品はそれほど好みではない。でも力のある作家だと思う。
ストーリーとは全くはずれるけど、平野も村上春樹みたいに、好きな音楽をあちこちにちりばめていて、自分はこういうのを読むとたいていネットで視聴してみる。今回は菊地雅章と富樫正彦のコラボ、All The Things You Are がでてきた。ジャズです。二人とももう亡くなっている。


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映画は11月公開。妻夫木聡、窪田正孝、安藤サクラが主演なので、かなり期待できますね。ぜひ見てみたい。安藤はテレビだと「まんぷく」だけど、映画では万引き家族でかなり売れた。でも一番好きなのは「百円の恋」です。濃い方なので、視聴注意。
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ところでノーベル文学賞ですが。
どこかの誰かの書き込みをちらっとみたら、村上春樹、多和田葉子、小川洋子の名前があがっているが、それより平野がとるのが早いかも、という意見を読んだけどどうでしょうね。




 

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