「猛禽©瀧波ユカリ」と高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」 2022前期芥川賞について

8月に買っておいた「文藝春秋」、涼しくなったのでようやく高瀬さんの作品を読了。



 ある民間会社のオフィス。30歳前後の若い男(二谷)と若い女二人(芦川さん、押尾さん)

の三人の関係が、恋愛感情と仕事意識と食事に対する思いについて、それぞれの独特なずれに焦点をあてて描かれている。登場人物はあとは上司の藤とパートのおばちゃんの原田さん、他はとくに名前もないほど。三角関係の話なんだろうが、むしろ二人の女、仕事はできないけど優しくてお菓子を作って会社にもってくるタイプ!の芦川さんと、チア出身でバリバリ系の押尾さんの対比がメイン。女の敵ともいえる芦川さんの勝利に終わるのは、多くの女性の癇に障るかもしれないが、この芦川さん、なんだか弱弱しくふわふわしているように見えて、何を考えているかわからない怖さも少し。

選考会議では川上弘美が一押し。「登場人物全員が、簡単にほぐれない一つの球体をなして、どんどん輝きを放ってくる。これはいったいどういうことなのか?」松浦寿輝が「候補作五作のうち…ずば抜けて面白い」「圧倒的にすごいのは、いつもニコニコしている『芦川さん』の人物像・・・・のあたりでわたしは背筋がそそけだっていくのを感じた。これはほとんど恐怖小説だ」

さて山田詠美はというと:

「私を含む多くの女性が天敵と恐れる「猛禽©瀧波ユカリさん」登場。彼女のそら恐ろしさが、これでもか、と描かれる。思わず上手い!と唸った。」

とのこと。ところでこの山田詠美が言った「猛禽©瀧波ユカリさん」とは一体なんなんだ。

三省堂のウエブ辞書(https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/chara-hoi-71)によれば

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

語には「語がある以上,その指示対象もちゃんとあるはず」と思わせる力があり(前々回),そのことは特にモノを表す語に顕著に見られる(前回)。つまり,「坊っちゃん」や「お嬢様」のような語(キャラクタのラベル)には,「ことばがある以上,そういうキャラクタもちゃんとあるはず」と思わせる強い力がある。このことをまざまざと感じさせてくれるのは,瀧波ユカリ氏のマンガ『臨死!! 江古田ちゃん』(講談社)にたびたび現れる,「猛禽」(もうきん)というキャラクタのラベルである。

このことばが指し示している『猛禽』キャラとはどのようなキャラクタなのか? 主人公の江古田ちゃんたちによれば,それは「走ればころび,ハリウッド映画で泣き,寝顔がかわゆく,乳がでかい」(第1巻5頁)という,世の男性にとって魅力的な諸特徴を備えた一種の『娘』キャラで,「狙った獲物(男性)は決して逃がさない」(第1巻5頁)というところから,ワシやタカなどの猛禽類にたとえられてこの名が付いている。下位類としては妹のような『妹猛禽』(第1巻125頁),一見猛禽らしくない『かくれ猛禽』(第4巻55頁・第5巻56頁)などがある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ということみたいです。

さて、最後に私の感想は:一気読みできる面白さ。一人称と三人称の語りを混ぜていく立体的な構成など、なかなかうまい人だと思う。男性の二谷にあまり共感できない。そんな奴いるのかとも思うがいるんだろうな。女二人はどっちもいそうだし、似たタイプならお目にかかったこともあるかも。

テーマ的には自分の好むジャンルじゃないので、この人の作品を次のも読むかというと、ちょっと評判聞いてからにするかな、くらいの感じです。

コメント