斎藤美奈子は、1960年代以降の古典未満で中途半端に古いベストセラーをまとめ読みして(再読でしょうが)、「名作度」「使える度」をそれぞれ★★★~★にわけて評価断罪!まあこんなことをやるのは斎藤美奈子くらいで、こういう遊びは結構好きだ。
斉藤美奈子自身のことを検索したのは初めてで、1956年生まれ。ウィキペディアでは:
児童書の編集者を経て文芸評論家児童書の編集者を経て、書き下ろし『妊娠小説』で文芸評論家としてデビュー。森鴎外『舞姫』から村上春樹『風の歌を聴け』まで、「望まれない妊娠」のシーンがある作品を取り上げて論じ、近現代日本文学に潜む女性観をあぶり出した。『文章読本さん江』で小林秀雄賞受賞。『紅一点論』のようなサブカルチャー研究や、『実録・男性誌探訪』『戦下のレシピ』など風俗研究色の強い著作もある。朝日新聞書評委員、文藝賞選考委員などを務め、2008年4月-2012年3月朝日新聞の文芸時評を担当。
この人の評論はどれを読んでも、読みやすく、楽しめるような工夫がある。プロ意識の高い人だと思う。かっこつけない、ええかっこしをしない、というのがまあ自分的には一番。
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この紹介で、読んでみたくなった本、再読したくなった本を書きだした。斉藤のコメント付き:
住井すゑ「橋のない川」 (水平社運動の下地の話)
★★★差別への感受性が鈍っている時代にこそ効くストレートパンチ。
山口瞳「江分利満氏の優雅な生活」(ごくごく日常のことなのに、多くの共感を呼んだ)
★★★気楽なサラリーマン生活とは、青春を台無しにされた世代の復讐だったのではないだろうか。高度経済成長を牽引したのは、こういう人たちだったのだ。
山本茂美「ああ野麦峠」 「女工哀史」とあわせ、力強いメッセージは今も古びない。
★★★「…こういうことを無視して明治を論じても意味がない」どうですか、この力強い宣言。表題に「ああ」とついているだけあり、この本は非常にドラマチックなのだ。ノンフィクションというより「記録文学」と呼びたい。
兎の眼「灰谷健次郎」 灰谷の中では一番売れた本か。
★★★初めて読んだ人は五回くらい泣くよ。泣かせようと思って書いてるからね。
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斎藤がけちょんけちょんにけなしている本と簡単な紹介:
遠藤周作「わたしが・棄てた・女」
★日本文学が伝統的に採用してきた「若くして死んだ女を生き残った男が回想する」というパターンの物語・・・一人称という形式を巧みに利用して語られる弁明の書。これが多くの読者の涙を本当に誘ったのであろうか。疑わしい。
中根千枝「タて社会の人間関係」
★いやはや、びっくりした。私が出版社の担当者だったら「先生、これでは読者が寝てしまいます」と注文しただろう。
土井健郎「甘えの構造」
★ええっと。本気で書いてるんですよね、これ。「このような俗流心理学は、保守的な大人にはウケたであろう。」
渡辺淳一「ひとひらの雪」
★不倫にのめった中年男の夢と無恥。男たちを勘違いさせた罪は大きいと思いますね。
井上ひさし「青葉繁れる」
★この本で抱腹絶倒できる人がいたら、自分のセンスを疑いなさい
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最後に斎藤が取り上げた本で改めてみなおした本、再読はしないけど、評価がわかってよかったもの:
ホイチョイプロダクション「見栄講座」
山口百恵「蒼い時」
田中康夫「なんとなくクリスタル」
鎌田慧「自動車絶望工場」
黒柳徹子「窓ぎわのトットちゃん」
司馬遼太郎「この国のかたち」
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